死神×少女+2【続編】
グリアが立ち去った後。
リョウが苦しみに震えていると、背後から聞き慣れた声が響く。

「魂には還る場所があり、天使もまた従うべき主の元へと還る運命にある」

リョウは地に頭を垂れたままだが、その言葉は不思議なくらいにリョウの心に響く。

「天使・リョウ、自覚せよ。決して運命には逆らえぬ。お前は決して私を拒む事は出来ないのだ」

大事な物を失い、自分自身を見失い――行き場を失ったリョウ。
天王はリョウの心を全てを見抜き、自分の思惑通りの場所へと導く。

「天使・リョウ。私の元へ戻るがいい」

伏せていたリョウの瞳が開かれる。
そう、今のリョウが求めているのは、自分を必要としてくれる存在。
リョウの中で、1年前に呪縛を受けた瞬間の記憶が思い出される。
あの時の、天王の言葉。

『天使・リョウ。私はお前を失いたくはない』

――そうだ、あの時も天王様はボクに……

あの時から、天王はリョウを必要としていたのだ。
リョウはゆっくりと振り返ると、天王を見上げた。

少し前までは天王を見るだけで恐怖に震えていたのに、目に映った天王の姿にかつての信仰心が甦る。

「再び私に仕える事を誓うか?」

命令形ではなく疑問形なのは、リョウ自身の口で答えを出させる為の最後の引き金。
それは天王が作り出した、リョウの最後の逃げ道。

「………はい。天王様」

導かれるまま、リョウは自らの口で答えを出した。
今、天王の筋書きの一節は、彼の思い描いた通りの結末となって完成した。

「ならば、私への忠誠をこの場で示せ」

リョウは片膝を上げて天王の眼下で跪いた。
かつて天界に仕えていた頃、玉座の前でそうしたのと同じように。
それは、天使が天界の王に従う事の証。




リョウは、再び天王に仕える事を自分の意志で決めた。
かつてリョウに呪縛をかけ、
亜矢の魂を奪おうと仕向け、
グリアを消滅させようと企てた天界の王に。




死神と天使を繋げていた絆は、完全に断たれた。






天使・リョウは、再び天王の手に堕ちた。






屋上から立ち去ったグリアは、マンションの自室まで歩いて戻った。
先程、亜矢を振り切って走り出した時の勢いはどこにもない。
その足取りは、どこか重い。
マンションのグリアの部屋の前では、亜矢がドアを背にして、寄りかかって立っていた。
グリアが目の前に立つと、亜矢は俯かせていた顔を上げた。
グリアはどこか力のない眼で亜矢を見下ろした。

「まだここに居たのかよ」

亜矢はムっとして睨み返す。先程の涙はすでに乾き、いつもの強気な亜矢だ。

「あんたが居ろって言ったんじゃない」

何か言い返して来ると思ったが、グリアは呆然と亜矢の顔を見たまま何も返さない。
力のない眼―――。
亜矢がグリアの顔を注意深く覗き込む。

「やだ……。なんで、あんたまで悲しい顔してんのよ?」

グリアはフン、と鼻で笑った。

「はあ?バカ言ってんじゃねえ」

亜矢は何故か心が痛むのを感じた。
一体、グリアが走って向かった先で何があったのか。
亜矢は胸の中で、不安に似た胸騒ぎを感じた。
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