死神×少女+2【続編】
リョウの部屋から出た亜矢は、次にグリアの部屋のドアの前に立った。
だが、ある事に気付いて、自分の部屋のドアの方へと向かった。
この時間は、グリアはいつも夕飯をたかりに亜矢の部屋へと押しかける。
亜矢が自分の部屋に入ると案の定、グリアが当たり前のように居座っていた。

「あれ?コランくんは?」
「あ?ガキなら、あっちの部屋で昼寝してんじゃねえ?」
「…………そう」

亜矢は意を決して、グリアの正面に座った。
グリアは、ン?と亜矢の顔を見返す。

「何してんだよ?早くメシ作れ」

だが、亜矢は負けずにキっと眉をつりあげ、グリアの顔を見据える。
そして、思い切って切り出した。

「リョウくんとの事……話してくれない?」

亜矢はグリアの返答を待つが、グリアは一切の言葉を発しない。
亜矢の顔を睨み返し、すぐに視線をそらした。
グリアも、リョウと同じ。何も話す気はないのだ。
それは、亜矢も承知の事だ。
こうなったら、最終手段に出るしかない。

「もし話してくれたら、今日の『口移し』は3回してもいいわ」

その言葉に、グリアは僅かに反応した。

(やっぱり、こんな手じゃ通用しないか……)

亜矢にとっては思い切った作戦に出たのだが、反応しないグリアを見て諦めかけた時。
グリアが体勢を少し崩し、僅かに表情を緩めてから、静かに口を開いた。

「ちっ。何を話せばいいんだよ?」

思ってもいない反応に、亜矢は少し驚いた。

(うそっ!?効果あり!?)

こうなったら口移し3回だって、なんのその。結果オーライである。

「リョウくんが、また天界に仕える事にしたみたいなのよ」
「……みてえだな」

その事は、すでにグリアも知っているようだ。

「だが、それは逆だ。天王が、リョウを再び自分の元へ引き戻したんだ」

グリアは、天王の名を口にする時にはいつも憎しみをこめて言う。

「なんで、そこまでしてリョウくんが必要なのかしら」
「リョウの力だ。天王は、リョウの持つ特別な能力を欲しているんだよ」
「リョウくんの……特別な能力?」

亜矢は思い返してみるが、何も思い浮かばなかった。

「それって、なに?」
「あんたもよく知ってる能力だぜ」

曖昧な返答しかしないグリア。亜矢は、それ以上深くは問わない事にした。
天王がリョウを手放したくない理由はもう1つあるが、グリアは言わなかった。
全ての天使は、天界の王である天王を崇拝している。
天王の命令に背き、絶対服従を破った天使は、歴史上でリョウが初めてなのだ。
天王は、『例外』を作りたくはないのだ。
『神』としての自分の存在と権威を絶対の物にする為に。
だからこそ、どんな手を使ってもリョウを自分に服従させる必要があった。

「リョウくんと……仲直り出来ないの?」
「言っただろ?全てはリョウの心次第だと。あいつは呪縛に負けたんだよ」

そう。リョウは運命という呪縛に囚われ、自らの心の闇に堕ちた。

「……オレ様には、どうにも出来ねえ」

グリアらしくもない、弱気な言い回し。
亜矢は、気付いた。
グリアのリョウに対する気持ちは、何も変わっていない。
変わってしまったのは、リョウの方なのだと。

「リョウくんを、元に戻す事は出来ないのかしら」
「……………」

グリアは、それには答えなかった。

『人の心は力では変えられない』

前に、そう言ったのはグリア自身だ。
だが、亜矢は完全に希望を捨ててはいなかった。
逆を言えば、今のリョウの心だって完全には変わっていないはず。
無言のグリアを見つめながら、亜矢は心で、その人の名を呟いた。

(リョウくん、あたし………信じてる)

それは以前、亜矢が死の淵に立った時にリョウに向かって言った言葉と同じ。
< 40 / 128 >

この作品をシェア

pagetop