死神×少女+2【続編】
亜矢達が王宮の門に辿り着いたのは、それからすぐ後だった。
亜矢は足を止め、目の前に聳え立つ門を見上げた。
見張り番も誰もいない、静まりかえったその場所。
ディアが隣で静かに問いかけた。

「これから、どうしますか?」

それはまるで、亜矢の意志確認をするようだった。
亜矢は門の先を力強く見据えた。

「ここまで来たら、天界の王サマに会うわ。一発、叩かないと気が済まない」

臆する事なく、亜矢は力をこめて言った。
リョウを苦しめ、陥れ、私益の為に亜矢の魂を手に入れようとした天界の王。
亜矢は一度も会った事のない天界の王に対し、怒りの感情しか持っていない。
ディアは亜矢を見ると、すぐに門に視線を戻した。

「強いですね、亜矢サマは」
「リョウくんにも言われたわ」

亜矢は笑ったが、心では少し弱気だった。
自分は決して強い訳じゃない。
何の力もないし、誰かの力を借りなくてはここまで来れなかった。
自分の命を甦らせてくれたのも、この場に自分がいられるのも。
全ては、誰かのおかげなのだ。
だから、今度は自分に出来る事をしたい。力になりたい。
亜矢の手が、少し震えた。
コランが亜矢の手をぎゅっと握った。
その感触に気付き、亜矢はコランを見下ろす。

「アヤ、大丈夫!オレもディアも一緒だ、恐くない!」

亜矢は思わず、コランを抱きしめたくなったがこらえた。

「ありがとう、コランくん、ディアさん。行きましょう」
「はい。魔王サマもすでに来ているはずです」
「え?」

亜矢は小さく聞き返したが、それ以上は言葉が続かなかった。
ディアは、王宮への門を開いた。






天王のいる『玉座の間』の扉が、再び開いた。
グリアとリョウは、同時に部屋に足を踏み入れた。
玉座に座った天王は特に驚く様子もなく、視線だけを向ける。
壁に寄り掛かっていた魔王もまた、少しだけ顔を上げて見る。
静かな空間の中に、リョウは緊迫した空気を感じた。
天王はまず、リョウに向かって静かに口を開いた。

「天使・リョウ。再び私に背き、今度は刃向かうか?」

リョウは少し怯んだが、ゆっくりと玉座の前まで歩んだ。
グリアはその場に留まったまま、リョウの背中を見守る形になった。

「天王様がボクを必要とするのなら、いくらでも従います。……でも、こんなやり方は間違っています」

何かを奪ってまで手に入れようとするやり方に、リョウは反発した。
リョウからグリアとの絆を奪ってまで、天王はリョウを服従させようとした。
何故、いつも事を成すのに犠牲が必要なのか。
犠牲となるのは、自分一人でいいのに。
そんな自虐的な考えが、リョウの心をよぎった。
その時、開いたままの部屋の扉から、さらに数人が中へと入ってきた。
亜矢と、ディアと、コランだ。
魔王はようやく壁から離れた。

「ようやく揃ったか…」

魔王は、亜矢達の方に向かって歩いた。
亜矢は魔王の姿に気付き、驚いた。

「魔王、なんでここに?」

ふと、亜矢は正面の方を見た。

「それに……死神とリョウくんも」

何が起こっているのか、亜矢には分からない。
亜矢はグリアとリョウの位置よりもさらに先にある玉座に気付いた。
一瞬、心臓が衝撃に大きく鳴った。
玉座に座っているあの人こそ、天界の王に間違いない。
亜矢は視線を前に向けたまま、放心したように歩を進めた。

まさか、あの人は………?

グリアの位置まで辿り着くと、亜矢は立ち止まった。
玉座を見つめたまま、亜矢は驚愕に声を漏らした。

「そんな…………天真さん?」

亜矢が口にした名は、天王の人間界での名前。
亜矢の住むマンションのオーナーである彼の名だ。

「天真さんが……天界の王?」

心が整理できず、亜矢は疑問だけを口にする。
亜矢の脳裏に思い出される天王の姿は、優しく笑いかける笑顔と、洋菓子店で一緒にシュークリームを食べた時の楽しいひととき。
まさかあの人の正体が、自分の魂を奪おうとした天王だったなんて。
怒りの感情なんて、すでにない。あるのは、疑問だけだった。
天王は相変わらずの静かな口調で言う。

「魂の器・春野亜矢。改めて名乗ろう。私は全ての『命』を司る、天界の王。天王ラフェルだ」

だが、亜矢は感情に任せてさらに歩を進めようとした。

「天真さんが、なんでっ……!?」

そう言った亜矢を、魔王の腕が制止した。

「黙って見てな」

亜矢は魔王に顔を向けた。
落ち着きながらも、そう言う魔王の言葉にはどこか力強さを感じ、亜矢は黙った。
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