死神×少女+2【続編】
そんな亜矢の『変化』を、一緒に暮らしているコランも敏感に感じ取っていた。
だが、感じるそれは違和感や不快感などではない。
むしろ亜矢を今まで以上に慕い、側に寄り添った。

「コランくん、もう寝ようか。おいで」

そう言って、ベッドの上から布団をめくり上げて、コランの入るスペースを開けて誘い入れる。
亜矢の口調、表情、温もり、心地よさ。それらは何一つ変わらない。
だが、コランは何かが少し違うようにも感じた。
コランが亜矢の隣に入り込むと、亜矢は優しくコランを抱きしめた。

「なぁ、アヤ……だよな?」

亜矢が亜矢である事を確認するように、コランは問いかけた。
亜矢は、その唐突な質問に驚く事なく、ただ静かに微笑んだ。

「じゃあ、誰だと思う?」

肯定も否定もしない。思いもしない質問が亜矢の方から返って来た。

「アヤ……だろ?オレの契約者で、大好きで、だから……」

あれ…?今、一体自分は誰と話しているんだろう?と、コランは不思議な感覚に陥った。

「だから、オレ、アヤの願いを叶えたくて……」

悪魔として、契約者の願いを叶えるという使命がある。だから一緒にいる。
本当は理由なんて要らないのに、正当な理由を幼いながらに探しているのだ。
純粋で懸命なコランの想いに応えるように、亜矢はコランの髪を優しく撫でた。

「願いなら、もう叶えてくれたわ」
「オレが?…そうなのか?」
「うん。私の元に帰って来てくれた」

亜矢の言葉の意味が、コランには分からなかった。
話している相手は確かに亜矢なのだが、向けられた瞳も言葉も、全てが違う存在のように感じた。
亜矢に向けられるコランの瞳の色は、魔王と同じ深紅。
今の亜矢にとっては、瞳に映るコランの全てが懐かしくて愛しい。

「コラン……大きくなったね」

いつの間にか、亜矢が無意識に口にしている言葉の数々。
それは間違いなく『亜矢』ではなく、コランの母親『アヤメ』の人格だった。
段々と眠りに沈む意識の中、コランもまた……無意識に亜矢の事を、こう思った。

『お母さん』みたいだ、と。

母の存在など知らず、その頃の記憶もない。だがコランは、初めてそう感じた。


抱き合いながら眠る二人の姿は、まるで……子を抱く母親のようだった。
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