死神×少女+2【続編】
その日の放課後も、二人だけの職員室で『密会』は行われていた。
魔王は、自分を見上げる亜矢の頬を両手で包んだ。

「今日は何を思い出した?言ってみな」

亜矢は、意識が混濁したような、本来の輝きではない瞳をしていた。
その瞳の奥では、今ここではない場所、遠い過去の映像がぼんやりと映し出されていた。
亜矢の脳裏に浮かんでいるのは、アヤメであった頃の魔界での日々の記憶。
自然と亜矢の唇が動き、言葉を紡いでいく。

「紫色の………花……」
「ああ、そうだな。それは王宮の庭園だ」

魔界の王宮の庭園には、菖蒲(あやめ)の花畑が存在する。
それは、過去に魔王がアヤメの為に作った庭園だ。

「…コランも……」
「そうだ。赤ん坊のコランを連れて、よく歩いたな」

それは、寿命の短い人間のアヤメと一緒に過ごした、僅かな期間の尊い記憶だった。
魔王もまた、当時の優しい時間を思い出して浸りながら、優しい瞳で思いを馳せた。
魔王は、亜矢からアヤメの記憶を少しずつ引き出していく。
ゆっくりと時間をかけて誘導するのは、無理に一気に覚醒させて、亜矢の人格を崩壊させない為だ。
亜矢もアヤメも手に入れる。それが魔王の目的で、野望なのだ。
その時だった。

ガラガラガラガラ………バァン!!!

鍵の閉まっていたはずの職員室のドアが、音を立てて勢いよく開かれた。
亜矢が虚ろな目で音のしたドアの方に向けると、小さくその名を口にした。

「………死神?」

そこに立っていたのは、グリアだ。
彼にとっては、鍵のかかったドアを開ける事など容易い。
グリアは、全身から溢れ出す憎悪を向けるようにして魔王を睨みつけた。

「センセイが生徒に何度手ェ出してんだよ」

しかし、魔王は至って冷静だ。視線は向けるものの、特に反応はしない。
そして静かに片手を上げると、パチン!と指を鳴らした。
その音がスイッチとなって、亜矢は一瞬で正気に戻り、本来の瞳の色を取り戻した。

「あれ…?あたし、何でここにいるの?」

自ら職員室に足を運んだ事すらも、亜矢には曖昧な記憶なのだ。
グリアは早歩きで亜矢の方へと進んだ。

「帰るぜ、亜矢」

そう言うと、亜矢の片腕を掴み、強引に引っ張った。

「え……ちょっ、死神?」

亜矢はその力に引っ張られて、体勢を崩しながらも何とか歩き出す。
魔王は引き止める事なく、その様子を見送るだけだった。

「いいぜ。亜矢はいずれオレ様のモノになる。好きにしてみな、死神」

魔王の、その笑みと宣戦布告とも取れる言葉。それは余裕の表れであった。
亜矢には常に選択権を与えて、その先は彼女次第。
亜矢は必ず、自分の元へと帰ってくるという確信が魔王にはあった。
魔王と亜矢は、何百年という輪廻を経て、魂で繋がっているからだ。
それは死神にも、誰にも覆せない。



死神と魔王は、力で直接対決をする事は望んでいない。
お互いにとって、亜矢を『奪う』のではなく『取り戻す』為の争いなのだ。
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