死神×少女+2【続編】

第15話『辿り着く場所(前)』

見切り発車で始まった、亜矢とグリアの初デート。
デートとは言っても、実際に何をどうすればいいのか?
グリアを誘った亜矢だが、それすらも分かっていなかった。
以前の、大人になったコランとのデートとは、全く別の感覚なのだ。




繁華街までの道のり、これからどうするべきかと、亜矢はグリアの顔色を伺う。
本当なら男に行き先を決めて先導して欲しいものだが、相手の彼は人間ではない。
人間界の娯楽を把握してない可能性だってある。
ここは亜矢の方から提案する方が無難だろう。

「どこ……行く?こういうのって、やっぱり、まず映画とか?」
「興味ねえな」
「じゃあ、カラオケとか?」
「興味ねえな」

同じ返事を繰り返すグリアに、亜矢は苛立ってきた。

(じゃあ、あんた一体、何に興味あるのよ!?)

繁華街の入口まで辿り着いた時、ふと、ネットカフェの看板が目に入った。
今ではよく見る、ネットカフェ。漫画喫茶とも言う。

「じゃあ、ネットカフェとか?」
「興味あるな」
「………興味あるのっ!?」

予想外なグリアの反応に、大げさすぎる程に驚いてしまった。
死神って、漫画読んだり、ネットしたり…するものなのだろうか?
全く想像ができない。

「そこは、良く知らねえからな」

そう答えるグリア。深い意味はなく、ただの興味本位なのだろう。
まぁ、興味があるなら試しに行ってみるのもアリだろう。
そう亜矢が思った次の瞬間、グリアがニヤリと笑った。

「でも密室なんだろ?ソレ」

………嫌な予感しか、しない。




予感は的中、亜矢は後悔した。
二人が入ったのは、もちろんペアシート。
薄暗くて、静かで、狭い室内に、若い男女が、たった二人。
狭苦しく空調が少し暑かったので、グリアが自分のシャツの前ボタンを上から、いくつか外した。
シャツの間から、チラっと見え隠れするグリアの肌と鎖骨が、何とも言えない色気を放っていた。
悔しいが、元々イケメンなのだ。これで動揺しない女がいるものだろうか。

(何見てんだよ)

チラっとこちらを睨んだグリアが、目だけでそう言ってる気がした。
防音室ではないので、二人とも音を立てる事も、声を出す事も出来ない。
漫画を読む訳でもなく、ネットをする訳でもなく、こんな空間に閉じ込められたのだ。気が狂いそうに空気が重い。
ここで、彼がする唯一の事と言えば、もちろん……

(っ!?)

グリアが前屈みで迫って来た。色っぽい鎖骨が嫌でも目に入る。
亜矢は口を結んだまま、思いっきり顔を左右に振った。一応の抵抗だ。
…そう。グリアにとって『口移し』をするのに、こんなに絶好な場所はないだろう。

(…………っ!!)

亜矢が座ったまま後ろへと下がろうとするが、狭い室内。すぐに背中が壁に当たった。

(個室内では、いかがわしい事禁止っ!!)

そう言いたげな亜矢だが、もちろん死神はそんなルールなど知らないし、お構いなしだ。
声も出せず抵抗もままならない亜矢を見て、ドS…もとい、サディスティックな死神が煽られないはずがない。
迫り来るグリアに、抵抗空しく……
亜矢の唇は、あっという間に捕らえられてしまった。

「…………っ……!」

声が出せないのをいい事に、いつもより深く……長く重ねてきた。

(こ、こいつ………)

亜矢は薄く目を開けて、目の前のキス魔を睨んでやろうと思った。
だが、綺麗すぎる彼の顔を見せつけられて、逆に抵抗感が失われていく。
ふっと亜矢の体から力が抜けた事に気付いたグリアが、そっと離れた。
そのまま亜矢の体を、クッションのように弾力のある柔らかい床に、音も立てずに押し倒した。

(ま、まさか…?)

グリアが、すでにいくつかボタンの外された胸元のシャツを手で崩し始めた。

(これって…)

押し倒された目の前に、覆い被さる彼の銀色の髪と、魅惑の瞳が迫り来る。

(口移し……で終わらない!?)

暴れてしまえば、この事態が周囲に知られてしまう。
どうするべきかと亜矢は脳内をフル回転してみるが、混乱した頭では打開策は思い付かなかった。
考える暇もなく、グリアは亜矢の首筋に顔を近付け、唇で触れた。

(………っ!!)

初めての感触に思わず声が漏れ出そうになったが、必死に抑えた。
顔が、全身が……異常なまでの熱を帯び始めた。
次には何が来るのだろうと、亜矢は意を決してギュッと目をつぶった。

………だが、いつまで経っても『次』がない。

亜矢が、恐る恐る目を開ける。
目の前には、すでに身を起こして笑いを押し殺しながら、クククと声を出さずに笑っているグリア。
亜矢は思った。
二度と、コイツと密室で二人きりにならない。
外に出たら、まずコイツを叩こう、と。
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