死神×少女+2【続編】
亜矢よりも先に校門を出て歩いていたグリアが突然、足を止めた。
どこかで生じた『空間の歪み』、そして強い『胸騒ぎ』を感じたからだ。
何かの衝動に動かされるようにして、逆方向へと走り出す。
一心不乱に息を切らして高校の門を通り抜けると、校舎の裏へと回る。
そこは一見、何も変わった様子はないが、グリアにはハッキリ見える。
魔王が作り出した『空間の歪み』が。

「チッ……ヤツか……!!」

息も整わないまま、グリアは手に鎌を出現させると大きく振り上げ、空間を切り裂いた。
斜めに出来た切れ目が口を開き、人が通れる大きさの入り口になった。
グリアは躊躇わず、中へと足を踏み入れる。
中は真っ白な空間だが、数歩進むと、二人の人影を確認できた。
だが、その姿を見て衝撃に言葉を失ったのは、侵入者であるグリアの方だった。
床も壁も空もない、ただ真っ白な空間に佇むグリアの正面に立つのは、魔王と亜矢。
だが、魔王は亜矢の肩を抱き、亜矢はまるで恋人のように魔王に寄り添っている。
その時、グリアが感じたのは『亜矢らしくない』ではない。あれは……

『亜矢ではない』

姿は、確かに亜矢だ。だが、その佇まいからは、亜矢の面影が消えていた。
亜矢が魔王から離れ、グリアの方へと歩み寄る。
高校の制服姿ではあるが、その表情、瞳の色も…普段の亜矢らしさは微塵も感じられない。
亜矢は、グリアの目の前で立ち止まった。
そして、ただ亜矢を見下ろすだけのグリアに向かって、微笑んだ。

「私、魔界に行く」

笑顔と共に放たれた予想だにしない言葉に、グリアは目を見開いた。
まるでグリアを瞳に映していない亜矢の無感情な微笑みに、違和感を越えて恐怖すら感じた。

「テメエ……何……言ってんだよ……?」
「全て思い出したのよ」

その姿、声も確かに亜矢だ。しかし、亜矢の口から出た言葉は……
それは、真実を知らないグリアにとって、予想も出来ない答えだった。


「私は、アヤメなの。オランを愛してる…だから一緒に行く」




亜矢とアヤメの『人格』と『記憶』は、融合された。
本来、在るべき一人の姿として。
亜矢の左手の薬指に嵌められた指輪が、微かに光った。
だが、グリアの目には映っていない。




『魂の輪廻』の儀式が完成した後、魔王を一度でも受け入れてしまった後―――
例え望まなくとも、亜矢は徐々に前世の記憶を取り戻していく事になった。
そして、今―――
亜矢の中のアヤメが覚醒してしまった今―――



亜矢は、当たり前のように………魔王を選んでしまった。
< 72 / 128 >

この作品をシェア

pagetop