死神×少女+2【続編】
そうして、『魂の再生』の儀式は行われた。
亜矢の魂からアヤメの記憶を複製し、媒体である菖蒲(あやめ)の花に命を吹き込む。
それは一瞬の儀式で、気が付けば亜矢の目の前には、『もう一人の自分』が存在していた。

「………あれ?オラン、どこ………?」

新しく生まれたアヤメが開口一番に口にしたのが、魔王の名前だった。
現世の記憶は亜矢と共有していたので、今の状況に疑問は感じていない。
アヤメの外見は亜矢と全く同じ17歳の少女で、並んでも見分けが付かない。
前世のアヤメは魔王の魔力によって生涯、姿は17歳のままであったからだ。

「アヤメさん、とりあえず服着て…?これ、あたしの服だけど、ピッタリだと思うから」

亜矢は、まだ新しい服をアヤメに手渡した。自分の分身が裸でいるのを見ていられないのだ。
天王は、この状況でも至って冷静だ。

「春野さん、忘れないで欲しいのだが、彼女はアヤメ妃の疑似体に過ぎない」
「え、どういう事ですか?」
「記憶は複製できても、魂は複製できない。アヤメ妃の魂は、今でも君と共に在る」

今、ここに居るアヤメは、アヤメの記憶と姿をコピーした疑似体なのだ。
亜矢がアヤメと同じ魂を共有している現実に変わりはない。
疑似体のアヤメは、亜矢が次に転生するまでの間の『繋ぎ』のような存在となる。
いつか亜矢が再び転生した時には、その転生体と疑似体を融合させて、一人の『アヤメ』という完全体にする。
それが成される遠い未来まで、天王はアヤメを見届けようという覚悟があった。
それによって、魔王は常に何度でもアヤメと結ばれる事が出来る。

「…あの……オランはどこですか?オランに会いたいです……」

アヤメは、亜矢と天王の会話を気にも留めていない。ひたすらに魔王を探し求めていた。
そんなアヤメを見て、亜矢は複雑な心境だ。

「なんか、魔王にラブラブな自分の姿って……見てて複雑なんだけど」

今後も、こういう姿を見続ける事になるのだろうが、果たして耐えられるだろうか?
それはそれで試練だ。

「今日は休日だから、魔王は魔界に居ると思うんだけど…」
「会って来るといい」

天王はそう言うと、亜矢の部屋のクローゼットを開けた。
その中には、魔界へと繋がる闇の空間が渦巻いていた。
亜矢は、もう何度も見ている光景なので驚かないし、説明されなくても分かる。
ここに飛び込めば、一瞬で魔界に行く事が出来るのだ。
自室のクローゼットは、もはや本来の用途よりも、異世界へ繋がる扉として活用されてしまっている。
アヤメがそれを見て、パッと明るい笑顔になった。

「ありがとうございますっ…!!」

それだけ言うと駆け込むようにして、勢いよくクローゼットに飛び込んで行った。
その場に残された、亜矢と天王。
これから魔界でアヤメと魔王が、どのような再会を果たすのか……
見たいような、見てはいけないような……
自分の分身なだけに放ってはおけず、心が落ち着かない。

「これで良かった……んですよね?」

亜矢が不安そうにして天王を見る。

「そうだと良いが」

何とも不安の残る、無表情での返答であった。
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