死神×少女+2【続編】
亜矢は、グリアに今までの事を全て話した。
自分が、魔王の妃である『アヤメ』の生まれ変わりだという事。
魔王の行った『魂の輪廻』の儀式によって、何度も転生を繰り返す事。
魔王によって、アヤメの記憶は再び封印された事。
天王によって、アヤメは疑似体として再生された事。

グリアは一言も発せずに、大人しく最後まで聞き終えた。
推測が現実へと変わったグリアは、それを驚きもせずに受け止めた。
すると今度はグリアが、今回の事に関しての全てを話した。

グリアは、400年以上前に、人間界でアヤメと出会っていた事。
生命力が尽きそうだった自分を、アヤメが助けてくれた事。
その時のアヤメには、すでに婚約者がいた事。
その時に『アヤメが生まれ変わったら必ず守る』とグリアが宣言した事。

お互いの話を照らし合せてみると、色々と見えてきた事があった。
グリアは、アヤメの『婚約者』が魔王だという事は知らなかった。
魔王も、アヤメが出会った『死神』がグリアだという事は知らなかった。
誰もが真実に気付かないまま、ここまで来たのだ。
それはまさしく、輪廻という運命に動かされたのだろう。

「え……でも、ちょっと待ってよ、それって『約束』じゃなくて『宣言』よね?」

まるで、グリアがアヤメと『来世で結ばれる約束』をしているみたいに聞こえたが、よく考えたら一方的だ。
アヤメが了承した訳でも、なんでもない。

「なんだよ、約束に了承は必要なのかよ?」

グリアは急に開き直った。

「いやいや必要でしょ、了承するから約束なんでしょ!?」
「じゃあ、なんだ?口移しにも了承は必要なのか?」
「普通はね」

確かに毎日、了承せずに口移しはしている……。了承したら負けだ。
全く意味不明なグリアの持論だが、何故か勝てる気がしない。
しかし、約束すらしてないなんて……
魔王の一途さと比べると、死神に運命を感じるには何か弱い気がする……。
そんな事を思っていると、急にグリアが目を伏せて考え事をし始めた。
何か深刻そうな雰囲気を感じて、亜矢は口を噤む。
ただ静かに、グリアの次の言葉を待った。

「魔王も儀式を行っていたとはな……」

グリアから呟くように出された、その言葉。
亜矢は聞き返さず、その言葉の意味を己で探ってみる。
おそらく、儀式とは『魂の輪廻』の事だろう。
グリアなら何か知っていそうだと思い、問いかけてみる。

「ねえ、『魂の輪廻』の儀式って、どんな方法で行うの?」
「それは、口付けだ」
「口付け…口移しじゃなく?つまり普通のキス?」

念を押して確認してしまう所が悲しい。

「そうだ。1年間、欠かさず『口付け』を交わす事。それが儀式の条件だ」

グリアの口から明かされた『魂の輪廻』の儀式の条件。
もちろん条件は、それだけではない。
禁忌の儀式を行えるのは、強大な魔力を持つ者に限られる。
魔王と、天王と……グリアくらいだ。

「なんか、それって『魂の器』の儀式と似てない?」

亜矢は、これまでの情報を思い返した。

『魂の器』の儀式とは…
死んだ人間の心臓を蘇生させる事ができる。
条件は、『365日』欠かさず『命の力』を口移しで与える事。
だが代償として、儀式を行った本人は消滅してしまう。
…グリアが亜矢に行った儀式だが、代償は免れた。

『魂の輪廻』の儀式とは…
死んだ人間の魂を何度も転生させる事ができる。
条件は、『365日』欠かさず『口付け』を交わす事。
だが代償として、儀式を行った本人は転生が出来なくなる。
…魔王がアヤメに行った儀式だ。

亜矢は、ここである事に気付いた。
いや、もしかして……という、憶測でしかない。

「死神、あんた、もしかして……」

命を失った、あの日からの1年間を思い出す。
『口移し』の事など思い出したくもないが、それでも…。
意地悪で、口が悪くて、強引で……
それでも、思い出される『口移し』の時の彼の眼差しは、いつも真剣だった。
グリアは無言で亜矢を見返す。それが返事の代わりかのように。

「あたしに……2つの儀式を、同時に………?」

グリアは頷いた。

「ああ。オレは亜矢に『魂の器』と『魂の輪廻』を同時に行っていた」

グリアのそれは、今までにない衝撃の告白だった。
亜矢を生き返らせるだけではなく、亜矢の魂を何度も転生させようとしたのだ。
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