キスまでの距離


これは夏が終わるまでの仮そめの安らぎだというのに――……。




しばらくして、あたしの鳴咽が治まって来た頃、シンさんは言った。



「あのメールの相手に心当たりは?」



あたしの鼓動はまた大きく一打ちする。

ただし、先程とは別の意味で。


「あ……、」


ようやく絞り出せたのは、掠れたそんな一言だけ。



―――心当たりはある。



ただ、それを説明しようと思うと、思い出すのも悍ましい記憶を話さなければならなかった。

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