キスまでの距離
3.ゼロ
その日の夜、あたしはシンさんの家に来ていた。
美佐からは『先に帰る』というメールが入ってきていたし、なによりまだ離れたくなかった。
離れてしまうと、夢から醒めてしまうんじゃないかという不安が、あたしを支配していた。
そんな想いから、あたしはシンさんの仕事が終わるまで、ずっと胡蝶の事務所で待っていたんだ。
「はい」
シンさんはそう言いながら、あたしの前にグラスを置く。
それは、やっぱりあたしの大好きな100%オレンジジュースだった。