キスまでの距離
覚えていない。
「と言っても、俺が一方的に見てただけだから、唯が知らなくて当たり前なんだけどね」
シンさんはふわりと笑った。
「4年前、18歳から胡蝶に勤めていた俺は初めてメイン料理を任されたんだ」
シンさんが静かに話し出すのを、あたしは大人しく聞いていた。
「そうして初めて作った料理が客席に運ばれて、一体お客様がどんな顔で食べてくれるか気になった俺は、密かに見ていたんだ。そのお客様が唯だった。唯はとてもおいしそうに、幸せそうに食べてくれた。それがとても嬉しくて、唯の表情が忘れられなかった」