キスまでの距離


あたしはすぐに気付いた。



そのお料理とは、きっと送別会のあの日、唯一おいしく食べられたあのお料理だ。


どうして今はメニューにないお料理がと不思議だったけど、それはシンさんとあたしの思い出のお料理だったから。


だから、きっとシンさんはあたしに食べさせたくて――……。


そういえば、4年前も100%オレンジジュースを飲んだんじゃなかっただろうか。


あたしはどこでも100%オレンジジュースを飲んで、いつも母に飽きないわねって呆れられる。


多分、胡蝶での食後のドリンクでも繰り広げられていたはずの光景だ。



「何か辛いことがある度に唯の表情を思い出し、いつかまたあんな顔をしてもらうんだと頑張れた。いつしか、ずっと唯においしい料理を食べさせたいと思うようになっていて、すぐに唯が好きだと気付いたんだ」

< 197 / 207 >

この作品をシェア

pagetop