キスまでの距離
声のした方を横目で見ると、そこにはスマイルを浮かべたシンさんが立っていた。
「お客様、悪ふざけはご遠慮願います。森永は嫌がっているようですし、離していただけませんか?」
顔は笑っているのに、声は笑っていない。
低く重たい声に、あたしまで怖くなりそうだった。
それは、あたしを抱きしめる男も同じだったようで、抱きしめる腕の力が抜けた。
その隙にあたしはその腕から抜け出して、シンさんの背中に隠れた。
男は「クソッ」と声を上げながら、荒々しく席に戻り、気まずそうに食事を再開した。
ホッとしたあたしは、シンさんと一緒に裏の事務所に行った。