キスまでの距離
頬に零れ落ちかけた雫はハルの右手を伝った。
「オレが男でいることで、唯を傷付けることはわかっている。それでも、オレは唯が好きなんだ」
「……ごめんなさい」
どんなに想われても、あたしはハルを男として見ることができない。
ずっと恋愛対象から外してきたんだ。
今更そんな風に見れるとは思えなかったし、そんな風に見ることで、今までのようにハルと接することができなくなるのも嫌だった。
「……ごめんなさい」
もう一度呟く。
まるで、贖罪を求めるかのように。
ハルに差し出せる対価なんてないのに。
代わりに償ってくれる者もいないのに。
止まることの知らない涙は、次から次へとハルの右手を濡らし続けていた。