今日から悪魔を目指します!
アイリは窓を開けると、窓枠に片足をかけて外に飛び下りた。
なんと3階の窓から飛び下りたのだ。

「アイリちゃん!?」

真菜が驚いて窓から顏を出すと、アイリの姿は下方ではなく前方にあった。
アイリは空を飛んでいたのだ。
その背中にはコウモリに似た黒い羽根があり、大きく広げている。
昨日コランに見せてもらった、悪魔の羽根と同じだ。
どちらかと言えば、アイリは天使の白い羽根の方が似合いそうではある。
黒き翼を背に校庭に舞い降りる姿は、まさに漆黒の天使。

「アイリちゃん……かっこいい……」

その姿に、真菜は状況を忘れて見とれてしまう。
アイリは魔獣から数メートル離れた位置に着地した。
そして胸の前で手を組み、祈りのポーズを取って目を閉じる。
その姿は、今にも全身から光を放ちそうなほどに神々しく美しい。
だが、アイリは祈っているのではなく、念じていた。

(力を抑えて、少しだけ、少しだけ……火!)

次の瞬間、アイリの全身から天に向かって火柱が昇った。
その柱は徐々に横へと幅を広げていき、炎の壁を作り出した。
5メートルはあろう魔獣を飲み込むほどに立ち上る炎の壁。
アイリは炎を纏いながら、その中心に立っている。
炎の壁に驚いた魔獣は走り去って行った。
訓練の演技なのか、本当に逃げ出したのかは、分からない。

「あっ…やりすぎちゃった……」

アイリが目を開けて祈りのポーズを解くと同時に、燃え盛る炎は瞬時に消えた。
再び羽根を広げると、アイリは校舎の3階の食堂の窓へ向かって飛んでいく。
開いたままの窓から、アイリが入ってきた。

真菜がポカンとしていると、魔王がアイリに歩み寄った。

「よくやった、アイリ。正解は『火』だ。魔獣は火を恐れるからな。覚えておけよ、(しもべ)ども!!」

そうは言うが、魔法が使えない真菜には、やっぱり無茶ぶりでしかなかった。
魔王に褒められたアイリは、嬉しそうに照れ笑いをしている。

防災訓練はこれにて終了、昼休みが再開される。
真菜とアイリも再びテーブルに着いて、食事を再開する。
そして、さっきの話の続きも……。
真菜は、さっきと同じ質問をもう一度アイリにしてみる。

「アイリちゃんは、本当に立派な悪魔にはなりたくないの?」
「うん……私、立派な人間になりたいの」
「………立派な悪魔になれると思うんだけど」

世の中は、不思議だらけだ。




『最強の生命力』を持ち、なぜか『悪魔を目指す』、人間の真菜。
『最強の魔力』を持ち、なぜか『人間に憧れる』、悪魔のアイリ。
そんな二人が、今日から友達になった。
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