今日から悪魔を目指します!
『魔法室』は校舎の1階、真菜のクラスの教室の隣にあった。
中に入ると、やっぱり印象としては理科室だ。
机は実験台みたいだし、壁際には何やら薬品らしき瓶が入った棚がある。

生徒全員が着席すると、魔法担当の先生が教室に入ってきた。
教壇の上に立った男性教師は、見た目は大学生くらいの若い青年だ。

「私の名はディアと申します。今日から魔法の授業を担当します。よろしくお願いします」

丁寧な口調と紳士的な態度、そして驚くほどのイケメン。
色白の肌に淡いブルーグリーンの髪、黄色の瞳。
スーツと軍服を合わせたような独特の服装をしている。
魔王もイケメンではあるが、礼儀正しいディアとは全く逆のタイプに見える。

「本来の役職は魔王サマの側近ですが、ご命令により授業を受け持つ事になりました」

丁寧な言葉遣いではあるが、つまり魔王に駆り出されたのだろう。
しかし魔王の側近といえば、ここの生徒なら誰もが憧れる役職だ。
立派な悪魔になって魔王に仕えるのが『(しもべ)』の目標なのだから。

「今日は、火の魔法の基本を学びます」

そう言って、ディアは教卓の上に小さな瓶を置いた。
理科の実験でお馴染み、アルコールランプだ。

「火は防衛としても有効ですが、扱うのは危険です。強さよりもコントロールが重要です」

それを聞いて、真菜は防災訓練を思い出した。
魔獣は火に弱いから、防衛に使えるという事だろう。
あの時、アイリが放った業火……危険でコントロールが重要とは、あの事だろうか。

「今回は、これに点火させる程度にまで魔力を抑える練習をします」

ディアは教卓の上のアルコールランプの芯に、右手の人差し指を近付けた。
すると触れてもいないのに、ポッと小さな火が灯った。
これが、魔力を抑えた『火の魔法』のお手本だ。

「それでは、一人ずつやってもらいます」

真菜は、思わず「えっ!?」と小さく声を漏らした。

やってもらう……私も……?
魔力を抑えるも何も、私、魔力がないんですけど……?

分かっていたとは言え、容赦ない授業に冷や汗が止まらない。
なんでこう、魔王もコランもディア先生も、無茶ぶりばかりするのだろうか。
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