今日から悪魔を目指します!
「でも今、オレが人間界に行かないと!真菜、きっと泣いてる!!」

コランは、涙を流しながら走り去って行く真菜の顏が忘れられない。
魔王はコランの肩にポンっと片手を置いた。

「それなら心配いらねえ。真菜の所へはアヤメを向かわせたからな」
「……お母さんを?」

キョトンとして、コランは魔王を見上げる。
王妃アヤメは人間なので、無契約で人間界に行っても問題はない。

その時レイトは一人で、ある事を考えていた。
魔王が人間界で教師をしていた時には、魔王である事は隠していたはず。
それなのに真菜の母親は、魔王が『魔界の王』だと知って頼ってきた。
という事は、それだけ親密な仲であるという事。
そういえば、図書室の本に書いてあった。
魔王は昔、宿敵の死神と『女を取り合った』という伝説だ。
その相手とは、もしかしたら……?
いや、その頃の魔王はすでに、アヤメと結婚している。
死神が勝手に魔王をライバル視していた……のかもしれない。




その頃の真菜は、まだ校門の前でしゃがみこんでいた。
だが、ようやく立ち上がった。
ここで泣き続けていても日が暮れるだけで、どうにもならない。
体操服のままだが、このまま家に帰るしかないと思った。
自宅マンションまでは徒歩10分くらい。
歩き続けてマンションに着いて、自宅の部屋のドアの前まで来て気付いた。

(あ……鍵がない……)

鍵どころか制服やカバンなど、私物は魔界の学校に置いたままだ。
取りに行く事もできず、ドアの前で呆然と立ち尽くしていると……

「真菜ちゃん」

優しい声で呼ぶ声がして、真菜は横を向いた。
そこにいたのは、着物姿の王妃アヤメだ。
その手には、真菜の通学カバンと制服を持っている。

「はい、忘れ物」
「王妃様……?なんでここに?」

荷物を受け取りながら、真菜は笑顔のアヤメを不思議そうにして見る。
よく考えてみたら、アヤメは人間だ。
魔界と人間界を行き来できても不思議ではない。

「とりあえず、上がって下さい」
「ふふ、お邪魔します」

立ち話もできないので、真菜はアヤメを家の中に招き入れた。
アヤメもそのつもりだったのか、ニコニコしながら家に上がる。
< 61 / 75 >

この作品をシェア

pagetop