今日から悪魔を目指します!
真菜は体操服から普段着に着替えると、リビングに戻る。
そして、アヤメが座っているテーブルの向かい側に座る。
真菜は、恐る恐る口を開いた。

「あの……私、スパイじゃありません……」
「え?やだ、真菜ちゃんったら。ふふっ、そんな事、誰も思ってないよ」

そう言って明るく無邪気に笑う姿は、コランにそっくり。
そして、外見と話し方はアイリにそっくり。……やはり親子だ。
さらにアヤメは、見た目が17歳なので大人と会話している気がしない。

「ねえ、真菜ちゃんは、どうして人間になりたいって思うの?」

アヤメの問いかけに、真菜は驚いた。
魔界の学校に通う前からずっと思っていた事なのに、どうして分かるのだろうか。

「私には死神の能力は全くないから、死神界の学校でも馴染めなくて、友達もいなくて…自信もなくて」

真菜は過去を思い出して、話しながら涙を溢れさせた。

「これからは人間界で一人暮らしして、人間の学校に通って……立派な人間になろうって……」

それなのに、通う事になったのは、なぜか『悪魔の学校』だった。
でも、結局は人間にも悪魔にもなりきれない。
それでも懸命に魔王を目指す、コランのような『夢』も持たない。
アヤメは優しい瞳で真菜を見つめる。

「うーん、何かになろうって決めるよりも、真菜ちゃんが今、何をしたいか、じゃないかな?」
「え……?」
「真菜ちゃんを見てると、なんだか昔の私を見てるみたいなの」

アヤメは400年以上前に、人間界の森で偶然、魔王オランと出会った。
そして、強引に『契約』を迫られたのだ。
契約を交わした後、いつしか二人は恋に落ちていった。

「私だって最初は、オランの奥さんになろうとは思ってなかったの」
「なら、どうして……ですか?」
「う~ん……いつの間にか、なりたいと思ったから、かな」

そう言いながら、アヤメは昔を思い出して頬を赤くしている。
あぁ、素敵な恋だったんだろうなぁ……と真菜は感じた。
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