今日から悪魔を目指します!
その日の夕方、真菜はいつものようにキッチンに立っていた。
今日は卒業記念で、いつもより豪勢な肉料理を作るつもりだ。

……だが、晩ご飯を作り始めても、コランがやって来ない。
いつもなら、ご飯よりも早めに来て、部屋に居座るのが日課だ。
もしかしたら、まだ照れているのかもしれない。

晩ご飯の支度を終えて、夜になってもインターホンは鳴らない。
心配になってきた真菜は、玄関のドアを開けて外に出る。
真菜の部屋の右隣にある、コランが住む部屋のドアの前に立つ。
インターホンを押してみるが、応答がない。
何度押しても反応はなかった。

(コランくん……いないの……?)

コランが居留守を使うとは思えない。
その時、真菜は気付いた。
いつもドアの横に掲げてあった『魔王』の文字の表札がない事に。

(え……なんで………!?)

心臓が高鳴り、息が詰まるほどの胸騒ぎに襲われて、真菜は戸惑う。

(そんな、まさか……!?)

次の瞬間、真菜は衝動的に走り出していた。
階段を下ってマンションの外に出て、一目散に暗い夜道を走る。
向かうは、学校。
普段なら徒歩10分くらいだが、全力で走って5分ほどで校門の前に着いた。
気付けば、雨が降り始めていた。
雨に濡れる事も気にせずに、真菜は校門の前で荒い呼吸を整える。
そして……思い切って、校門を通る。

(転移……されてない……)

真菜の目の前に建つのは、魔界の学校とは違う、見慣れない校舎。
そして雨も降り続いている。ここは魔界ではない証拠だ。
真菜はもう一度、校門の外に出て、また入ってみたが、同じだった。
何度繰り返しても、魔界に転移されない。

……魔界に行けない。

真菜は雨の降る中でガクッと膝を折り、校門の前に座り込んだ。
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