娘の親友 〜友情とセックスと一途な思い〜

六 波紋

 六 波紋

 月曜日ランチタイム
 幸せいっぱいの明日香が美和と屋上でランチしていると、美和と同じクラスの男子の橋本が声をかけてきた。
「白石、ちょっといいか?」
 先日、明日香に告白して振られていることを知っている美和が明日香より先に口を開く。
「明日香に何の用?」
「横澤には関係ない。大事な話だ」とややむっとして応える橋本。
「いいわよ、ここで話して‥‥‥」と答える明日香。
「横澤に聞かれるけどいいのか?」
「別に美和に隠すことなんてないからどうぞ」
「そうかよ‥‥‥。オレ土曜日に見たんだ。バンドの練習でスタジオを夕方出たところで、そばのラブホに白石が中年の親父と入っていくとこを。白石、援交してるのか?」
「そんなことするわけないじゃない」
「じゃああの親父は何だよ」
「人違いじゃないの?」
「いや、間違いない。白石の持ってるピンクと水色のしゅしゅしてたし」
「円してること学校にバラしたら退学もんだぞ‥‥‥」
「だから円なんかしてないから」
「黙っててやるから、オレと付き合えよ」
「あんた何明日香のこと脅迫してんの? サイテーね」
 怒った美和が立ち上がって橋本の前に立ち塞がる。
「明日香が誰と何しようと、あんたには関係ないじゃない!」
 いまにも橋本につかみかかりそうな美和に明日香が立ち上がって声をかける。
「美和、やめて」
「でも‥‥‥」
 美和の肩に手を置いてなだめながら橋本に向かって言う明日香。
「私が誰と交際しようと自由でしょ」
「はあ? ああいうのが交際だって?」
「お付き合いしてる彼だから」
「うそだろ、あんな親父とか‥‥‥。オレのこと振っといてあんなしょぼい中年親父と付き合ってるなんて信じられないね。どうせ身体だけの関係だろ」
「いいじゃない。あなたには関係ないわ。行こう美和」
 そう言ってお弁当箱を片付けて、橋本を残して屋上から降りていく明日香と美和。
「何だよ、清純な優等生ぶって、とんでもないビッチじゃないか!」と捨て台詞を吐く橋本。

「ダメ、相手にしないで!」と憤慨している美和のなだめて橋本には見向きもしないで屋上をを出ていく明日香。
「ホントにサイテーな奴。あんな奴よりお父さんのほうが全然かっこいいんだから」
 怒りで真っ赤になっている美和。
「うん、瑛二さんのほうが全然素敵だし、美和と私がちゃんとわかってればいいの。私、関係ない人がどう言おうが全然気にしてないよ。だから機嫌直して」
 そう言って美和をなだめる明日香だった。
「うん、ありがとう。そうだね、あんな中身のない奴の言うことなんか気にするだけバカらしいね。でもアイツ、腹いせでSNSとかに書き込んだりするかもしれない‥‥‥」
「証拠がないんだから否定すればいいの。でもお母さんにはもう話さないとダメかな」
「うん、そのほうがいいかも‥‥‥。静香おばさん、わかってくれるかなあ」
「わからないけど、真剣な気持ちをぶつけるしかないかな」
「明日香は強いね」
「そんなことない。でも本当に大事なものは自分が守らないと、って思うだけ」
「私、いつでも応援してるからね」
「うん、ありがとう美和」
 仲良く授業に戻る二人だった。


 その晩、明日香から話を聞いた瑛二は、明日香の母の静香に電話する。
「どうしたの? 瑛二から連絡してくるなんて‥‥‥」と驚く静香。
 明日香が時々美和のところに泊まりにきたりするので、そのお礼の電話を静香がしてくることはあったが、美鈴が死んでからは家族同士の交流もなくなっていたのだ。
「君に相談っていうか話したいことがあって‥‥‥」
「何? 明日香のこと?」
 突然の相談を持ちかけられて思い当たる節がないので、最近頻繁に美和のところに行くようになった明日香のことかと思い、静香は聞き返す。
「会ってから話すから。そっちに夜行ってもいいし、仕事帰りにどこかで食事しながらでもいいから」
「わかった、今週結構忙しいから金曜の晩でよければ。時間がまだ見えないからウチにきてくれると助かるな」
「時間は合わせるよ」
「早く上がるようにするけど、二十時でいい?明日香も卓もいるから先に待ってて」
「わかった‥‥‥」
 明日香の名前にちょっとドキっとした瑛二だが、静香との約束を取り付けて、いよいよ戻れない試練を超えていかないといけないことを改めて心に強く思うのだった。

 火曜日朝、明日香が登校すると、周りの生徒が明日香のことをあからさまに見ながら何かを囁いたりしているのに気が付く。
 一限を終わったあと美和が明日香のクラスに駆け込んでくる。
「明日香、やられた!あのクズ野郎、学校関係のSNSで明日香のこと流したの!」と憤慨している美和。
 橋本はまだ学校に来てないと言う。
「慌てないで‥‥‥」と美和を落ち着かせる明日香がSNSを確認すると「白石明日香はヤリマン。土曜日夕方中年オヤジとラブホでセックスデート」という投稿が流れていて、多くのリツイートやコメントが寄せられていた。
 なかにはいいかげんなデマじゃないかとか、人を貶めるような投稿を非難するコメントや、見間違いだというコメントもあったが、清楚なフリしてとんでもないビッチだとか淫売だとかいうような中傷や、援交だろう、という根拠のないコメントなども溢れていた。

 二限が始まり、美和はクラスに戻ったが、騒ぎが起きたのは二限のあとの休憩時間だった。
 美和と同じクラスで、夏菜子の彼氏のバスケ部の木田悠斗が、二限が終わったあとにクラスに入ってきた橋本がそばの席の仲間と明日香の投稿のことを自慢げに話しているのが耳に入って、橋本に飛びかかって思いっきり殴りつけた。
 彼女の夏菜子が明日香や美和と親友で仲良くしているのを知っていた悠斗は、橋本が明日香を侮辱しているのが我慢できなかったのだ。
「一度は惚れて告白した相手に嫌がらせするなんて、お前は最低のヤロウだ!」
 そう叫んで、悠斗は橋本を押さえつけて何発も殴り出した。
「本当のことを流しただけで何が悪いんだ!」
「本当かどうかなんて関係ない!本当だとしても自分の胸にしまって黙ってるのが男だろ!このクズ野郎!!」
 教室には女子生徒の悲鳴が響き、悠斗と同じバスケ部仲間のクラスメイトや美和が悠斗を抑えてやっと橋本から引き剥がした。
 橋本は悠斗に何発も殴られて顔は腫れ、口が切れて出血している。騒ぎを聞きつけて駆けつけた先生に連れられて悠斗は職員室に連れていかれ、橋本は保健室に連れていかれる。
 駆けつけた夏菜子が、先生に連れられていく悠斗を見て、駆け寄って縋りついて叫ぶ。
「どうして‥‥‥!」
「大丈夫だ、心配ないから」と夏菜子に微笑んで連れていかれる悠斗。
 明日香も騒ぎを聞いてやってきて、美和から事情を聞いて泣いてる夏菜子に「ごめんね、ごめんね」と謝り続ける。
 気を取り直した夏菜子が明日香に言う。
「ごめん、ちょっと驚いて取り乱しちゃって‥‥‥。明日香のほうこそ大丈夫? へんなこと書かれちゃって、ひどい目にあって‥‥‥」と明日香にハグする。
 そこに副担任がやってきて、みんなに自分の教室に戻るように言い、とりあえずその場はやっと収まっていった。

 その後、昼休みに明日香も職員室に呼ばれて事情を聞かれるが、明日香は事実無根だと突っぱねる。
 普段の素行のよくない問題児の橋本と、成績優秀で優等生の明日香の発言では、教師の誰もが明日香のことを信じるのはごく自然のことで、明日香に告白して振られた腹いせに橋本が明日香の中傷デマをSNSに流し、明日香と友達の悠斗がそれに我慢できなくなって暴力を振るってしまった、ということで、橋本と悠斗の二人は停学という結論になったようだった。
 放課後再び職員室に呼ばれる明日香を残し、帰路に着く美和と夏菜子。

 悠斗の停学に責任を感じる明日香。
 美和と電話で話して夏菜子には本当のことを話して、悠斗に謝りに行くことにする。
< 6 / 10 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop