娘の親友 〜友情とセックスと一途な思い〜

八 対決

 八 対決

 早めの夕飯を食べて出かける瑛二。
 美和から「頑張ってね!」とエールを受けるが、正直気が重い。
 静香は男っぽいはっきりした性格で、話のわからないタイプではないが、女手ひとつで頑張って育ててきた愛娘の明日香と、自分とほぼ同じ歳で、元カレの瑛二との結婚を前提とした交際を認めてくれるとは到底思えない。

「こんばんは」
 明日香の家に着いてドアホンを押すと、「は〜い」という明日香の声がして、すぐに玄関が開き、明日香が出迎えてくれた。
「静香ちゃんは?」
「さっき帰ってきて、今、ご飯食べてるとこ」
「二人も一緒に?」
「ううん、私と卓はもう食べた。私も一緒にいるね」
「いや、最初は僕だけでいい。あとで呼ぶかもしれないけど」
「うん、わかった」
 部屋に上がってリビングダイニングへ。
 ダイニングで晩酌をしながら夕飯を食べている静香がいた。
「いらっしゃい、どうぞ、こっちに。晩酌一緒にどう?」
 静香が声をかける。
「うん、それじゃあ僕もワインいただこうかな」
「はいっ」と明日香が瑛二にワイングラスを渡して、ワインを注ぐ。
「ありがとう」
「ごゆっくりどうぞ」と明日香が部屋に戻っていく。
「いただきます」とグラスを掲げる瑛二。
 乾杯を受ける静香。
「ずいぶんご無沙汰しちゃったね。瑛二に会うの、美鈴のお葬式以来かな」
「そうだね。あいかわらずキレイだね、静香は‥‥‥」
「おだてたって何も出ないよ」と笑う静香。
「仕事はどうなの?」
「おかげさまで上々かな。でも忙しいけどね」
「二人の面倒を見ながらだから頭が下がるよ」
「それはお互い様。ところで改まって相談って何?」
 ワインを飲みながら静香が聞く。
「最近、明日香、よく美和ちゃんのとこに泊まりに行くようになったけど、何か問題とか?」
「いや、違うんだ。明日香ちゃんのことだけど‥‥‥」
「何?」
「明日香ちゃんと僕の交際を認めてほしいんだ!」
 意を決して言う瑛二。
「はぁ〜っ? 何言ってるの瑛二。ちょっと冗談言わないでよ」
「冗談じゃなくって本気なんだ‥‥‥」
「え、どういうこと? 明日香と交際って‥‥‥。ちょっと待ってよ、美和ちゃんと同じ歳の子供なのよ、明日香は!」
「もちろんわかってる」
「えっ、何? 交際を認めてっていうことは、もう明日香とそういう関係だって言う事?」
「明日香ちゃんを男として愛してるんだ」
「ふざけないで! 瑛二は明日香の父親がわりに面倒を見てくれてると思ってたのに。なんでそんなこと‥‥‥。美和ちゃんが逆の立場だったら、あなた認められるの?」
「わからない。でも美和の思いにはちゃんと向き合ってあげないといけないとは思う」
「ちょっと待って、わけがわからないんだけど‥‥‥。明日香呼んでくる」
 そういって憤慨した静香は明日香を部屋に呼びにいく。

 すぐに明日香が静香に連れられてやってくる。
「そこに座って」
「はい」と神妙な明日香。
「今、瑛二からあなたとの交際を認めてほしいって言われたんだけど、どういうこと?」
「私、瑛二さんのことを愛してるの。高校卒業したら結婚したいです」
「あなたより二十歳以上も年上で、親子の歳の差があるのよ!」
「はい、もちろんわかってます」
「どうしてそんなことに‥‥‥。いつから?」
「最近です」
「もしかしてもう体の関係も?」
「はい。私が瑛二さんに迫ったんです」
「いや、それはちがう、僕が‥‥‥」
「いいわ、どっちからなんて」
「あ〜、も〜〜っ!!」と頭を掻きむしる静香。
 しばらく黙ってしまう。
「‥‥‥瑛二、悪いけどもう帰って。アタマ混乱してて今は話ができる状態じゃないから‥‥‥」
「わかった、でも明日香ちゃんを責めないでほしい、お願いだ」
「‥‥‥」
「じゃあ、引き上げるね」
 そう言って席を立つ瑛二。
 明日香が玄関まで送ってくれる。
「何かあったら必ず連絡して。僕が明日香を守らないといけないんだから」
「うん、ありがとう。でも大丈夫。ちゃんとお母さんにわかってもらうから‥‥‥」
「じゃあ、おやすみ」
 そう言って明日香の家を出る瑛二だった。

 リビングダイニングに戻った明日香は、また静香の向いに座る。
「お母さん、怒ってる?よね‥‥‥」
「わかんない、なんかショックが大きすぎて‥‥‥。あなた自分がしてること、ちゃんとわかってるの?」
「うん、もちろん。ちゃんと考えてる」
「いつから?」
「瑛二さんを好きになったのは小さい頃から。でも男性として意識するようになってきたのは高校に入ってくらいからかな。私、中学から今までに十人以上の男子に告白されたの。同級生もいれば先輩や下級生とかにも。でも全然ときめかないっていうか、興味もわかなかったの。告白を受けるたびに、やっぱり瑛二さんじゃなきゃダメだっていう思いがどんどん強くなっていって」
「それはあなたが小さい時にお父さんを亡くしたから、父親像を重ねてるんじゃないの」
「もちろん、それもあったと思うけど、でもそれだけじゃないの。美鈴おばさんを亡くしてから、本当に憔悴していた瑛二さんが、美和のために頑張って前を向いて歩きだしたのを見ていて、瑛二さんに寄り添って支えになりたい、男性として瑛二さんのことを好きなんだっていう意識がどんどん強くなっていって、それで先々週、美和のところにお泊まりにいった時に、告白したの。
瑛二さん、もちろん男と女の関係は断ってきたけど、でも私、どうしても諦められなくって、瑛二さんを脅すようにして強引に関係を迫っちゃったの。抱いてくれなければ、街で声をかけてきた男の人についていっちゃうから、って」
「なんでそんなこと‥‥‥」
「どうしても瑛二さんに女として見てもらいたかったの。だから瑛二さんを責めないで、私が悪いの」
「全く‥‥‥」
「瑛二さんがいい人で素敵な男性だってことはお母さんも知ってるでしょ」
「それはそうだけど、でもだからと言って、そんなのは別だから。瑛二とは親子ほど歳が違うんだよ?」
「わかってるけど、もうどうしようもないくらい愛しちゃったんだから。高校出たら瑛二さんのお嫁さんになりたいの」
「進学はどうするの? まだまだあなたは若いんだから、将来に色々な可能性もあるし、今そんなことを決めなくたっていいでしょう。これから先も素敵な男性に出会う機会なんていくらでもあるし」
「進学のことも今どうするか考えてます。でももう、瑛二さんを好きな気持ちが抑えられないし、誰と出会っても瑛二さんより心ときめく人なんていないから。だからお願い、私たちのこと認めてください」
 深く頭を下げる明日香。

「‥‥‥美和ちゃんはこの事、知ってるの?」
「うん、応援してくれてる」
「そう‥‥‥。なんかもうわからなくなってきた‥‥‥」
 う〜んと唸って考え込んでしまう静香。

「ごめんなさい‥‥‥」
「まだ子供だと思ってたけど、もう大人になってきたってことね‥‥‥」
 感慨深そうにそう言ってため息をつく静香。
「あと一年であなたも成人だし、あなたの人生だから、あなたがよく考えて自分の生きたいように生きていけばいいとは思うし、私はそれを尊重してあげないといけないのだけど、でも母親として、あなたが成人するまでは、保護者としてちゃんと考えないといけないの。
少し時間をちょうだい。私も考えてみるから」
「うん、ありがとう」
「お礼なんかいらないから。もう戻っていいよ」
「あの‥‥‥」と何か言いたそうな明日香。
「何?」
「悪いのは私だから、瑛二さんを怒らないで‥‥‥ほしいの‥‥‥」
「まったくもう、瑛二はあとでたっぷりお灸を据えてやるから、あなたは心配しなくていいよ」
「えっ、は、はい‥‥‥」

 そうして明日香は部屋に戻っていった。

 正直こんなことになるなんて思ってもいなかった静香。
 まだ十代の頃、大学のサークルで知り合った瑛二と恋に落ちて付き合いだした静香。お互いに若かったこともあって、衝突してケンカすることが多く、結局別れてしまったのだが、その後でサークルに入ってきた美鈴が、瑛二と付き合いだし、そのまま結婚したのをずっと見てきた静香。
 結婚して明日香を出産したのと同じ年に美鈴が美和を出産。
 静香は夫の仕事で数年間地方で暮らしたあと、夫を事故で亡くしてこっちに戻ってきた静香と二人の子供。
 夫と死別した静香を、美鈴と瑛二の夫婦は、励まし、気にかけてくれて、子供同士を一緒に遊ばせたりしながら、家族同士で頻繁に交流するようになり、瑛二は明日香や卓を自分の子供のように面倒見てくれたりしてきた。
 そんな瑛二をそばで見てきた静香は、いつのまにか瑛二への恋愛感情がまた高まってきてしまっている自分に気づき、その気持ちをずっと抑えてきたのだが、美鈴が三年前に病気で亡くなってしまってから、全てがかわってしまう。
 本当は美鈴を失った瑛二をはげまして支えてあげなきゃいけないとはわかっていたのだが、そうするときっと自分の気持ちに歯止めがつかなくなってしまうんじゃないか、それは亡くなった美鈴に対して申し訳ない、という思いで自分を律して美鈴のいない瑛二の家族との交流を控えるようになってしまったのだ。

 明日香は美和との友達付き合いは続けていたが、自分は仕事が忙しいからと、瑛二からたまの誘いも断ってきて、もう三年も経ってしまった。
 夕飯後、片付けと入浴を済ませてベッドに横になりながら、静香は今までのことをずっと思い出していた。

 瑛二のことは明日香よりもずっと自分のほうが知っているし、瑛二がああ言って、思いを伝えてきたからには、色々考えてその上で覚悟を決めてのことだろうし、瑛二のことは誰よりも信頼はしている。
 それに明日香も恋愛感情が高まって勢いで言ってるだけではなく、自分なりに十分に考えての上だということもわかるだけに、悩ましい。
 母親として今、私は明日香にどうしてあげるべきなんだろうか‥‥‥。
 色々考えているうちに静香は眠りに落ちていった。
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