娘の親友 〜友情とセックスと一途な思い〜
九 呼応
九 呼応
翌朝、土曜日。
久しぶりに遅くまで寝坊した静香が目を覚ましてダイニングに行くと、明日香がキッチンで食事の片付けをしていた。もう九時になっている。
「おはよう」
静香が声をかける。
「おはよう。ご飯作るね」
「ありがとう、卓は?」
「友達のとこに出かけた」
「明日香、今日の予定は?」
「まだ決めてない」
「あっちにはいかないの? ここんとこ毎週末行ってるし‥‥‥」
「うん、でも‥‥‥」
「別にいいよ、気にしないで。瑛二のとこ、夜は二人ともいるのかな?」
「いると思うけど、聞いてみようか‥‥‥」
「うん、二人ともいるんなら、一緒に話に行こうか、あなたたちのこと」
「わかった」
そう言って明日香はスマホでメッセージを送る。
静香の朝ごはんのトーストサンドとサラダとコーヒーを作って明日香がテーブルに持ってくる。
「ありがとう、いただきます!」と食べ始める静香。
そこに明日香のスマホにメッセージの着信音がする。
「二人とも夕飯は家にいるって」
「わかった」と言ってどこかに電話する静香。
「こんにちは、静香です。ご無沙汰してます。突然なんですが、今晩四人入れますか? はい、では十九時で、わかりました。よろしくお願いします」
「明日香、二人に今晩一緒に食事しましょう、って伝えてくれる? 私の奢りでいいから。十九時から「ベルファミレ」予約しておいから現地直接で」
「うん、わかった」
ベルファミレは美鈴が大好きだったフランスの家庭料理店で、ちょうど両方の家の中間にあり、よく二家族で食事に行ってたこぢんまりとしたいい店だった。
瑛二に、夕食の件をメッセージで送る明日香。
静香がどちらかの家ではなく、レストランでの食事を、と言ってくれたので、そんなにモメることにはならないのかも、と淡い期待を抱く明日香だった。
瑛二と美和がベルファミレに十九時に着くと、すでに静香と明日香は到着していた。
オーナーと久しぶりの挨拶を交わす瑛二と美和。
明日香の弟の卓は、友達のところで夕飯をご馳走になってくるとのことで、四人の会食が始まった。
「こうやって一緒に会食するの、ホントに久しぶりだね」と瑛二。
「そうね、三年以上ぶりかな。昨日はごめんなさい、追い返すみたいにしちゃって」
瑛二に頭を下げる静香。
「いや、いいんだ。僕が悪いんだから‥‥‥」
「今日は都合つけてくれてありがとう。
「本題はあんまり食事しながらっていう感じでもないから、あとにしましょう。美和ちゃんも付き合わせちゃってごめんね」
「いえ、全然かまいません。みんなでのお食事大好きですし、ここもホントにご無沙汰ですし」
美和は明日香の家に遊びに行ったりもしてるので、時々は静香や卓とも会ったりしている。
母の美鈴が亡くなってから家族での交流がなくなったことについて、美和は静香に聞いたことがあった。
最初は静香はその答えをはぐらかしてちゃんと答えてくれなかったのだが、ある時、美和がお泊まりの日に、夜遅く仕事でのお酒から帰ってきた静香から、酔いにまかせてその答えを聞きだしたことがある。
それは予想外の理由だった。
家族同士での交流が深まるに連れて、静香の瑛二に対する好意がどんどん大きくなってしまっていていたところに突然の美鈴の死で、親友を亡くした静香は、美鈴がいなくなったことで瑛二への想いが歯止めが効かなくなるのを恐れて、美鈴に申し訳ない気持ちが大きくて、それで瑛二から離れることにした、というのだった。
さらに驚いたのは、静香は、母と父が付き合う前に父と付き合っていたことがあり、父の元カノだということだ。母が父と付き合い始まる前には別れていたので、そのことは母も知らなかったらしい。
それを話してくれた時の静香は、かなり酔っていて、美和に話したことも翌日は覚えてなかったのだが、そのことを誰にも言わずに自分だけの秘密にしてきた美和は、明日香から父の瑛二への思いを聞かされたときに、応援するとは言ったものの、複雑な心境だったのだ。
自分の愛する娘が、自分と同じ相手、しかも元カレを好きになってしまい、交際を認めてほしいと話された時の静香の思いはどうだったんだろう。
相当複雑なことは間違いないと思うけど、だからこそ、今日この場でどういう話になるのかを見届けなきゃ、という思いでいっぱいだった。
食事はコースで頼んでいたので、次々に料理が運ばれてきて、おしゃべりを楽しみながら食事をする四人。
ひと段落してデザートになった時に、静香が本題について切り出した。
「そろそろ今日の本題を話しましょう。私、あれから色々考えたんだけど、でもまず二人から、この先のことをどう考えているか聞かせてくれる?」
瑛二と明日香の二人に目をやる静香。
「わかった。僕から話すよ」
瑛二が重い口を開いて話し始める。
「つい最近、はじまったばかりだから、正直まだ先のことまで考えれてない部分もあるんだけど、僕は明日香ちゃんが高校を卒業したら結婚して妻に迎えたいと思ってる。でも、結婚することで明日香ちゃんの将来を限定するつもりはないんだ。明日香ちゃんには大きな可能性も未来もあるから、希望の進学をしてもらって、仕事も希望の仕事についてもらえればと思っている。結婚したからと言って家に縛りつけたりするつもりもないし、でも一緒に暮らして支え合いながら生涯を共にしたいと思ってる」
物思いにふけるように考え込みながら瑛二の話を聞く静香。
「明日香はどう思ってるの?これから先のこと‥‥‥」
「はい、私も高校卒業したら瑛二さんと結婚したいです。大学受験と進学もするつもりです。その先は、まだどうなるかわからないけど‥‥‥」
「子供はどうするの? 子供ができたら学校とか仕事も考えないといけなくなるでしょ‥‥‥」
「もちろん瑛二さんとの子供は欲しいけど、すぐにとは考えてません。当面は避妊するつもりです」
「‥‥‥ふ〜っ‥‥‥」
黙って聞いていた静香が顔をあげて大きくため息をつく。
「‥‥‥あ〜あ、全くもう‥‥‥。こんなことになっちゃうなんて‥‥‥」
「ごめんなさい‥‥‥」明日香が小さな声で謝る。
「別に謝らなくていいわよ。相手が変な奴だったら絶対に認めないとこだけど、瑛二のこと、明日香よりずっとよく知ってるから、ダメって言えないじゃないの‥‥‥。でも、これだけ歳の差があると、周りからは変な目で見られたり、陰口叩かれたり、嫌がらせを受けることだってあるかもしれないし、瑛二のほうが二十以上も年上なんだから、全然先に逝っちゃうかもしれないし、そういうこと全部ひっくるめて乗り越えていく覚悟はあるの?」
「うん、大丈夫」と力強く答える明日香。
「僕も大丈夫だから」瑛二も答える。
美和のほうに向き直って二人のことを聞く静香。
「美和ちゃんは、ホントにいいの?」
「はい、大丈夫です。二人を応援してますから」
「そう、わかったわ。三対一で多数決でも私の負けだね‥‥‥。もう仕方ないから、二人の結婚を前提とした交際を認めるわ」
「えっ」と明日香がその返事に驚く。
こんなにあっさりと認めてくれるとは思ってなかったのだ。
静香が続ける。
「でも条件があるから。まず明日香は受験を頑張って志望校に合格して進学すること。大学卒業までの学費は私が出すから、ちゃんと大学まで卒業しなさい。結婚のことは、高校卒業までまだ一年以上あるから、その間に交際しながら、本当に二人で結婚するのかを高校卒業まで考えて、決意が変わらないなら、卒業して結婚していいから。あと、子供は大学を卒業するまでは作らないようにすること。これは私の希望だけど」
「うん、わかった。ありがとうお母さん!」と感極まって抱きつく明日香。
「わかったから、落ち着いて」と明日香をなだめる静香。
「静香、ホントにありがとう」
礼を言う瑛二に静香が釘をさす。
「あんたは覚悟しときなさいよ。大事なウチの娘をかっさらうんだから‥‥‥。当面イジメてやるんだから、ちゃんとグチに付き合いなさいよ!」
「え? あ、はい、何なりと‥‥‥」
ひたすら低姿勢でやり過ごそうとする瑛二に、場の雰囲気も和やかになる。
「ところで結婚したら家はどうするの?」
「私、瑛二さんの家に入るつもり」
「美和ちゃん、それでいいの?」
「うん、大丈夫だけど、でも二人に気を使わせるのも悪いし、新婚のお邪魔したくないから、私大学に入ったら家を出て一人暮らししようって考えてます」
「えっ? そうなのか美和」と驚く瑛二。
「うん、そのかわり少し仕送りっていうか家賃助けてほしいけどね。バイトもするけど‥‥‥」
「それは大丈夫だけど‥‥‥」
「美和ちゃんは、都内の大学への進学を考えてるの?」と静香が尋ねる。
「うん、そのつもりだけど」
「だったら、ウチに来たら? 明日香の部屋も空くし。一人暮らしじゃなくてもよければ、だけど」
「あ、そうか、そういう手もあるのか‥‥‥。ホントにいいんですか?」
「私はオッケーだよ。卓も美和ちゃんなら大歓迎だろうしね」
「そうですか、だったら考えてみようかな‥‥‥」
「いいんじゃない」と明日香も嬉しそうだ。
「そうだね、それなら僕も安心できるし。静香さえよければ」
「ふんっ、明日香の代わりに美和ちゃんもらっちゃうからね!」
「えっ、そういうことなの‥‥‥」
「あんたには断る権利ないからね!」
瑛二にしかめっ面をする静香。
「わかりました。よろしくたのみます」と頭を下げる瑛二。
「あ〜あ、娘に負けちゃうなんて‥‥‥」
静香は天を見上げてため息混じりに嘆く。
「えっ?」と驚く瑛二。
「もういいよ。この鈍感男!」
「え、どういうこと?」
「静香おばさん、お父さんのこと好きだったんだって」
「え、そうなの‥‥‥」
「私はなんとなくわかってたよ」と明日香が苦笑い。
「今更もう終わった話だからね‥‥‥」
ぼそっとつぶやく静香。
「ごめんね、お母さん」
小さな声で隣の静香に言う明日香。
「明日香が気にすることじゃないから。あなたはめいっぱい幸せになればいいの!」
「うん、ありがとう。愛してるお母さん」
少し涙ぐんでる明日香。
「ごめんな、こんなダメな僕で‥‥‥」
「もういいよ。あんたとは親戚で勘弁してあげるから。‥‥‥って、明日香とあんたが結婚したら、私、あんたの義理の母親になっちゃうの?」
「あ、ホントだ」と美和。
「え、ってそういうことは美和ちゃんは私の孫ってこと‥‥‥?」
「う〜ん、そうなるのかもしれないね〜」
「え〜〜っ、そんなのやだよ〜。まだ私、若いのにおばあちゃんなんて〜〜〜!」
静香の悲痛な嘆きと、それを囲むみんなの笑い声が店内に響き渡る。
こうして「美しい家族」という名を冠したレストランでの久しぶりの会食は、和やかに幕を閉じたのだった。
翌朝、土曜日。
久しぶりに遅くまで寝坊した静香が目を覚ましてダイニングに行くと、明日香がキッチンで食事の片付けをしていた。もう九時になっている。
「おはよう」
静香が声をかける。
「おはよう。ご飯作るね」
「ありがとう、卓は?」
「友達のとこに出かけた」
「明日香、今日の予定は?」
「まだ決めてない」
「あっちにはいかないの? ここんとこ毎週末行ってるし‥‥‥」
「うん、でも‥‥‥」
「別にいいよ、気にしないで。瑛二のとこ、夜は二人ともいるのかな?」
「いると思うけど、聞いてみようか‥‥‥」
「うん、二人ともいるんなら、一緒に話に行こうか、あなたたちのこと」
「わかった」
そう言って明日香はスマホでメッセージを送る。
静香の朝ごはんのトーストサンドとサラダとコーヒーを作って明日香がテーブルに持ってくる。
「ありがとう、いただきます!」と食べ始める静香。
そこに明日香のスマホにメッセージの着信音がする。
「二人とも夕飯は家にいるって」
「わかった」と言ってどこかに電話する静香。
「こんにちは、静香です。ご無沙汰してます。突然なんですが、今晩四人入れますか? はい、では十九時で、わかりました。よろしくお願いします」
「明日香、二人に今晩一緒に食事しましょう、って伝えてくれる? 私の奢りでいいから。十九時から「ベルファミレ」予約しておいから現地直接で」
「うん、わかった」
ベルファミレは美鈴が大好きだったフランスの家庭料理店で、ちょうど両方の家の中間にあり、よく二家族で食事に行ってたこぢんまりとしたいい店だった。
瑛二に、夕食の件をメッセージで送る明日香。
静香がどちらかの家ではなく、レストランでの食事を、と言ってくれたので、そんなにモメることにはならないのかも、と淡い期待を抱く明日香だった。
瑛二と美和がベルファミレに十九時に着くと、すでに静香と明日香は到着していた。
オーナーと久しぶりの挨拶を交わす瑛二と美和。
明日香の弟の卓は、友達のところで夕飯をご馳走になってくるとのことで、四人の会食が始まった。
「こうやって一緒に会食するの、ホントに久しぶりだね」と瑛二。
「そうね、三年以上ぶりかな。昨日はごめんなさい、追い返すみたいにしちゃって」
瑛二に頭を下げる静香。
「いや、いいんだ。僕が悪いんだから‥‥‥」
「今日は都合つけてくれてありがとう。
「本題はあんまり食事しながらっていう感じでもないから、あとにしましょう。美和ちゃんも付き合わせちゃってごめんね」
「いえ、全然かまいません。みんなでのお食事大好きですし、ここもホントにご無沙汰ですし」
美和は明日香の家に遊びに行ったりもしてるので、時々は静香や卓とも会ったりしている。
母の美鈴が亡くなってから家族での交流がなくなったことについて、美和は静香に聞いたことがあった。
最初は静香はその答えをはぐらかしてちゃんと答えてくれなかったのだが、ある時、美和がお泊まりの日に、夜遅く仕事でのお酒から帰ってきた静香から、酔いにまかせてその答えを聞きだしたことがある。
それは予想外の理由だった。
家族同士での交流が深まるに連れて、静香の瑛二に対する好意がどんどん大きくなってしまっていていたところに突然の美鈴の死で、親友を亡くした静香は、美鈴がいなくなったことで瑛二への想いが歯止めが効かなくなるのを恐れて、美鈴に申し訳ない気持ちが大きくて、それで瑛二から離れることにした、というのだった。
さらに驚いたのは、静香は、母と父が付き合う前に父と付き合っていたことがあり、父の元カノだということだ。母が父と付き合い始まる前には別れていたので、そのことは母も知らなかったらしい。
それを話してくれた時の静香は、かなり酔っていて、美和に話したことも翌日は覚えてなかったのだが、そのことを誰にも言わずに自分だけの秘密にしてきた美和は、明日香から父の瑛二への思いを聞かされたときに、応援するとは言ったものの、複雑な心境だったのだ。
自分の愛する娘が、自分と同じ相手、しかも元カレを好きになってしまい、交際を認めてほしいと話された時の静香の思いはどうだったんだろう。
相当複雑なことは間違いないと思うけど、だからこそ、今日この場でどういう話になるのかを見届けなきゃ、という思いでいっぱいだった。
食事はコースで頼んでいたので、次々に料理が運ばれてきて、おしゃべりを楽しみながら食事をする四人。
ひと段落してデザートになった時に、静香が本題について切り出した。
「そろそろ今日の本題を話しましょう。私、あれから色々考えたんだけど、でもまず二人から、この先のことをどう考えているか聞かせてくれる?」
瑛二と明日香の二人に目をやる静香。
「わかった。僕から話すよ」
瑛二が重い口を開いて話し始める。
「つい最近、はじまったばかりだから、正直まだ先のことまで考えれてない部分もあるんだけど、僕は明日香ちゃんが高校を卒業したら結婚して妻に迎えたいと思ってる。でも、結婚することで明日香ちゃんの将来を限定するつもりはないんだ。明日香ちゃんには大きな可能性も未来もあるから、希望の進学をしてもらって、仕事も希望の仕事についてもらえればと思っている。結婚したからと言って家に縛りつけたりするつもりもないし、でも一緒に暮らして支え合いながら生涯を共にしたいと思ってる」
物思いにふけるように考え込みながら瑛二の話を聞く静香。
「明日香はどう思ってるの?これから先のこと‥‥‥」
「はい、私も高校卒業したら瑛二さんと結婚したいです。大学受験と進学もするつもりです。その先は、まだどうなるかわからないけど‥‥‥」
「子供はどうするの? 子供ができたら学校とか仕事も考えないといけなくなるでしょ‥‥‥」
「もちろん瑛二さんとの子供は欲しいけど、すぐにとは考えてません。当面は避妊するつもりです」
「‥‥‥ふ〜っ‥‥‥」
黙って聞いていた静香が顔をあげて大きくため息をつく。
「‥‥‥あ〜あ、全くもう‥‥‥。こんなことになっちゃうなんて‥‥‥」
「ごめんなさい‥‥‥」明日香が小さな声で謝る。
「別に謝らなくていいわよ。相手が変な奴だったら絶対に認めないとこだけど、瑛二のこと、明日香よりずっとよく知ってるから、ダメって言えないじゃないの‥‥‥。でも、これだけ歳の差があると、周りからは変な目で見られたり、陰口叩かれたり、嫌がらせを受けることだってあるかもしれないし、瑛二のほうが二十以上も年上なんだから、全然先に逝っちゃうかもしれないし、そういうこと全部ひっくるめて乗り越えていく覚悟はあるの?」
「うん、大丈夫」と力強く答える明日香。
「僕も大丈夫だから」瑛二も答える。
美和のほうに向き直って二人のことを聞く静香。
「美和ちゃんは、ホントにいいの?」
「はい、大丈夫です。二人を応援してますから」
「そう、わかったわ。三対一で多数決でも私の負けだね‥‥‥。もう仕方ないから、二人の結婚を前提とした交際を認めるわ」
「えっ」と明日香がその返事に驚く。
こんなにあっさりと認めてくれるとは思ってなかったのだ。
静香が続ける。
「でも条件があるから。まず明日香は受験を頑張って志望校に合格して進学すること。大学卒業までの学費は私が出すから、ちゃんと大学まで卒業しなさい。結婚のことは、高校卒業までまだ一年以上あるから、その間に交際しながら、本当に二人で結婚するのかを高校卒業まで考えて、決意が変わらないなら、卒業して結婚していいから。あと、子供は大学を卒業するまでは作らないようにすること。これは私の希望だけど」
「うん、わかった。ありがとうお母さん!」と感極まって抱きつく明日香。
「わかったから、落ち着いて」と明日香をなだめる静香。
「静香、ホントにありがとう」
礼を言う瑛二に静香が釘をさす。
「あんたは覚悟しときなさいよ。大事なウチの娘をかっさらうんだから‥‥‥。当面イジメてやるんだから、ちゃんとグチに付き合いなさいよ!」
「え? あ、はい、何なりと‥‥‥」
ひたすら低姿勢でやり過ごそうとする瑛二に、場の雰囲気も和やかになる。
「ところで結婚したら家はどうするの?」
「私、瑛二さんの家に入るつもり」
「美和ちゃん、それでいいの?」
「うん、大丈夫だけど、でも二人に気を使わせるのも悪いし、新婚のお邪魔したくないから、私大学に入ったら家を出て一人暮らししようって考えてます」
「えっ? そうなのか美和」と驚く瑛二。
「うん、そのかわり少し仕送りっていうか家賃助けてほしいけどね。バイトもするけど‥‥‥」
「それは大丈夫だけど‥‥‥」
「美和ちゃんは、都内の大学への進学を考えてるの?」と静香が尋ねる。
「うん、そのつもりだけど」
「だったら、ウチに来たら? 明日香の部屋も空くし。一人暮らしじゃなくてもよければ、だけど」
「あ、そうか、そういう手もあるのか‥‥‥。ホントにいいんですか?」
「私はオッケーだよ。卓も美和ちゃんなら大歓迎だろうしね」
「そうですか、だったら考えてみようかな‥‥‥」
「いいんじゃない」と明日香も嬉しそうだ。
「そうだね、それなら僕も安心できるし。静香さえよければ」
「ふんっ、明日香の代わりに美和ちゃんもらっちゃうからね!」
「えっ、そういうことなの‥‥‥」
「あんたには断る権利ないからね!」
瑛二にしかめっ面をする静香。
「わかりました。よろしくたのみます」と頭を下げる瑛二。
「あ〜あ、娘に負けちゃうなんて‥‥‥」
静香は天を見上げてため息混じりに嘆く。
「えっ?」と驚く瑛二。
「もういいよ。この鈍感男!」
「え、どういうこと?」
「静香おばさん、お父さんのこと好きだったんだって」
「え、そうなの‥‥‥」
「私はなんとなくわかってたよ」と明日香が苦笑い。
「今更もう終わった話だからね‥‥‥」
ぼそっとつぶやく静香。
「ごめんね、お母さん」
小さな声で隣の静香に言う明日香。
「明日香が気にすることじゃないから。あなたはめいっぱい幸せになればいいの!」
「うん、ありがとう。愛してるお母さん」
少し涙ぐんでる明日香。
「ごめんな、こんなダメな僕で‥‥‥」
「もういいよ。あんたとは親戚で勘弁してあげるから。‥‥‥って、明日香とあんたが結婚したら、私、あんたの義理の母親になっちゃうの?」
「あ、ホントだ」と美和。
「え、ってそういうことは美和ちゃんは私の孫ってこと‥‥‥?」
「う〜ん、そうなるのかもしれないね〜」
「え〜〜っ、そんなのやだよ〜。まだ私、若いのにおばあちゃんなんて〜〜〜!」
静香の悲痛な嘆きと、それを囲むみんなの笑い声が店内に響き渡る。
こうして「美しい家族」という名を冠したレストランでの久しぶりの会食は、和やかに幕を閉じたのだった。