好きな人の妹とつき合う僕ってずるいですか?
「じゃあ、いい?」

 そんな上目遣いで見られたら、断ることなんかできやしない。

 全校男子に殺されるかもしれないけど、そんなことは些細なことだ。

 ボクはコクコク頷いた。

「よかった!」

 京美先輩は花が咲くように笑って手を打った。

 細い指先に綺麗な爪が光る。

 こんな素敵な女性がボクの彼女になるなんて、今日は人生最良の日だ!

 そう思ったのもつかの間、先輩の後ろからおずおずと小柄な女の子が出て来た。

「よかったね! ねっ、苺梨(まりん)」
「え……」

 この子は知ってる。

 先輩の妹ということで、有名な子だ。

 1年1組の磐崎苺梨。

 吹奏楽部でフルートを吹いているボクの後輩だ。

「う、うん……」

 苺梨は紅い顔を俯かせて、京美先輩に背中を押されて前に出てくる。

 唖然とするボクの前でゆっくりと顔を上げ、潤んだ瞳をボクに向けた。

「よ、よろしくお願いします。舜右センパイ」
「え……」
「じゃあ後は若い者同士で」

 どこかの仲人さんのようなセリフを残して、先輩は去って行った。

 手をひらひらと振りながら、いじわるな笑みを残して。

「え……」

 木漏れ日の差す校舎裏で、ボクは生まれて初めて彼女ができた。

 不本意ながら。
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