好きな人の妹とつき合う僕ってずるいですか?
「思ったより早かったな。もっと彼女といちゃいちゃしてくればよかったんだ」
「また斗真兄は、そんなこと言って」

 ボクは気まずさを見透かされないようにキッチンへ行き、コップを取って冷蔵庫から牛乳を出して注いだ。

「そうよ、斗真。高校生に彼女なんてまだ早いんだから。何かあったって責任取れないでしょ」
「ぶっ!」

 牛乳が変なところに入って、思わず吹き出すところだった。

「母さん、変なこと言わないで」

 うちの母親は小学校の教師をしている。そのせいか妙に頭が固くて、ときどきこういう変なことを言い出す。

 母はダイニングキッチンのコンロの前でカレーを煮込みながら、真剣な顔でボクを見た。

「それに、なにかあって一番辛いのは舜右じゃなく相手の女の子の方なんだからね」
「なにかって、なにもないよ」
「そう、ならいいけど」
「ただいまー」

 そんな話をしていると、父が帰って来た。

「お、今日はカレーか」

 父はネクタイの結び目を緩くしながら、カバンをダイニングの椅子へ置いた。

「あら、あなた。そんなところに置かないで。雑菌がつくでしょ」
「おお、すまん。おっ、斗真も帰ってたか。今週末試合だろ。そんなのんびりしてていいのか?」
「オヤジ、俺を誰だと思ってんだよ。トーマ様だぜ」
「ははっ、そう言っていられるのも今のうちだぞ」

 ボクはコップをシンクで洗うと、洗い物かごへそっと置いた。そのまま気配を消してリビングを出て行く。

 父さんは斗真兄の才能に大きな期待をかけていた。将来はJリーグでプレイさせたいと思っている。

 できそこないでなんの取り柄もないボクは、父さんの目には映っていない。

 そして、たまに映ると――

「おい舜右、お前まだあの子とつき合ってるのか? いい加減別れろって言っただろ」

 リビングの扉を開けたところで、父の鋭い声が背中に飛んできた。
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