悪魔の王女と、魔獣の側近 ~高校~
アイリがここまでショックを受ける理由は、母・アヤメへの単なる嫉妬ではない。
全力疾走の勢いで上履きのまま校舎を出たアイリは、ようやく校庭の真ん中で足を止める。
後方からディアが追いかけてきて、アイリの背中のすぐ後ろで足を止めた。
アイリは背中を丸めて肩を上下させながら小刻みに震えている。
背後に立つディアは、アイリが泣いているのだと気付いた。
「アイリ様。傷の事でしたら、大丈夫ですので……」
「ちがうもんっ!!」
バッと勢いよく、アイリはディアの方を振り向く。その拍子に大粒の涙が弾け飛んだ。
「私、知ってるもん。ディアは、ずっと、ずっと……お母さんの事が好きなんだって!!」
「……!!」
今度はディアの方が金色の目を見開いて衝撃を受けた。
それは、アイリが生まれる前……何百年も前から密かに隠し通していた、ディアの心。
誰にも言わずに、心に秘めていただけの恋心。
……ディアは、王妃アヤメに片思いをしていた。
これが、アイリが母であるアヤメに恋愛相談をできない理由。
魔王もアイリも気付いているのに、アヤメ自身はディアの想いに気付いていないからだ。
当然、ディアが王妃に恋をしたところで叶うはずもないし、叶えようとも思わない。
ただアヤメが幸せであればいいと、見守るだけの密かな恋だった。
自分でさえ口に出した事のない想いを、アイリの口から出されてしまった衝撃に、ディアは言葉が返せない。
しかし、アイリの感情の暴走は止まらない。
「ディアは、私をお母さんと重ねて見てるだけでしょ!?」
娘・アイリと、母・アヤメは、姉妹に見えるほどに容姿が似ている。
だからって、アヤメへの叶わない恋をアイリで満たすような真似を、ディアがするはずもないのに。
心では分かっていても、感情に乗せられた言葉の暴走は勢いを増すばかり。
「だから……好きでもないのに優しくしてくれるんでしょ?」
……ちがう。ディアを追い詰めたい訳じゃないのに。
……こんなの、本心じゃないのに。
「ディアにとって、私は、お母さんの代わりなんでしょっ!?」
アイリの叫びがオレンジ色の空虚な校庭に木霊して消えると、静寂に包まれた。
恐る恐るアイリが顔を上げてディアを見ると、ハッと息を呑んだ。
ずっと無言であったディアは眉をひそめ、悲しいというよりは苦悶の表情で顔を歪めていた。
……こんなディアの表情は見た事がない。
ようやくディアの口が微かに開いた。
「それがアイリ様の本音なのでしたら……心外です」
その表情と言葉から、アイリはディアの頬だけでなく、心まで傷付けてしまったという罪悪感に襲われた。
しかし心外というのは、何に対してなのだろうか。
今も本音を言わないディアこそが、一番罪深いのかもしれない。
全力疾走の勢いで上履きのまま校舎を出たアイリは、ようやく校庭の真ん中で足を止める。
後方からディアが追いかけてきて、アイリの背中のすぐ後ろで足を止めた。
アイリは背中を丸めて肩を上下させながら小刻みに震えている。
背後に立つディアは、アイリが泣いているのだと気付いた。
「アイリ様。傷の事でしたら、大丈夫ですので……」
「ちがうもんっ!!」
バッと勢いよく、アイリはディアの方を振り向く。その拍子に大粒の涙が弾け飛んだ。
「私、知ってるもん。ディアは、ずっと、ずっと……お母さんの事が好きなんだって!!」
「……!!」
今度はディアの方が金色の目を見開いて衝撃を受けた。
それは、アイリが生まれる前……何百年も前から密かに隠し通していた、ディアの心。
誰にも言わずに、心に秘めていただけの恋心。
……ディアは、王妃アヤメに片思いをしていた。
これが、アイリが母であるアヤメに恋愛相談をできない理由。
魔王もアイリも気付いているのに、アヤメ自身はディアの想いに気付いていないからだ。
当然、ディアが王妃に恋をしたところで叶うはずもないし、叶えようとも思わない。
ただアヤメが幸せであればいいと、見守るだけの密かな恋だった。
自分でさえ口に出した事のない想いを、アイリの口から出されてしまった衝撃に、ディアは言葉が返せない。
しかし、アイリの感情の暴走は止まらない。
「ディアは、私をお母さんと重ねて見てるだけでしょ!?」
娘・アイリと、母・アヤメは、姉妹に見えるほどに容姿が似ている。
だからって、アヤメへの叶わない恋をアイリで満たすような真似を、ディアがするはずもないのに。
心では分かっていても、感情に乗せられた言葉の暴走は勢いを増すばかり。
「だから……好きでもないのに優しくしてくれるんでしょ?」
……ちがう。ディアを追い詰めたい訳じゃないのに。
……こんなの、本心じゃないのに。
「ディアにとって、私は、お母さんの代わりなんでしょっ!?」
アイリの叫びがオレンジ色の空虚な校庭に木霊して消えると、静寂に包まれた。
恐る恐るアイリが顔を上げてディアを見ると、ハッと息を呑んだ。
ずっと無言であったディアは眉をひそめ、悲しいというよりは苦悶の表情で顔を歪めていた。
……こんなディアの表情は見た事がない。
ようやくディアの口が微かに開いた。
「それがアイリ様の本音なのでしたら……心外です」
その表情と言葉から、アイリはディアの頬だけでなく、心まで傷付けてしまったという罪悪感に襲われた。
しかし心外というのは、何に対してなのだろうか。
今も本音を言わないディアこそが、一番罪深いのかもしれない。