悪魔の王女と、魔獣の側近 ~高校~
ようやく落ち着いてディアと向かい合うと、アイリは疑問を浮かべた。

「でも、なんで急にディアが変身魔法を使えなくなったんだろうね?」
「そ、それは……」

するとディアは思い当たる節でもあるのか、視線を泳がせて頬を赤らめている。
あぁそうか、とアイリはディアの心を察した。
ディアは、恋愛に関する想いを口に出せない。これ以上問い詰めるのは、追い詰めるのと同じ。
ディアの魔法の不調は、アイリの魔法が不調だった理由と同じだったのだ。

アイリは何も言わずに微笑むと、ディアの片手を握った。
ディアもその手を握り返すと、二人はようやく中庭を抜けて城の中へと入っていく。

「ねぇ、この前、お母さんに言ってた『好きです』って、誰に対してなの?」
「そ、それは……」
「ふふ、ごめんね。もう分かったから大丈夫」

夕日を浴びる菖蒲(あやめ)の花畑に目もくれずに、しっかりと手を繋ぎながら。

そして課題のクリアを報告するために、二人は魔王の部屋へと行く。
部屋に入ってきた二人を見ただけで、魔王は全てを察した。
ディアが人の姿でいる事こそが、アイリの魔法が成功したという証拠だからだ。

「よくやった、アイリ。試験は合格だ」

魔王はアイリにそれだけ言うと、鋭い赤の瞳でディアを睨みつけた。

「魔力の乱れは、心身の乱れだ。ディア、てめぇも健康診断を受けろ」
「……はい、魔王サマ。承知致しました」

魔王はディアの魔法の不調の原因を知らないので、嫌味のように言い放った。
アイリは、魔王にディアの『封印』の事を話そうかと一瞬、迷った。
ディアの恋愛感情の封印を今すぐに解いてほしいと、頼もうかと思った。
だが、それはディアの強い決意を踏みにじる行為にも思えてしまって、思い留まった。
きっとディアは、自分に課した試練を乗り越えようとしている。
そんな決意も封印も含めて、全てがディアの『愛』なのだと思ったから。

(あれ?でも、パパがディアの恋愛感情を封印したのに……)

アイリの恋愛相談に対して、魔王は『ディアを調教しろ』とか『春はチャンス』とか、恋のアドバイスをしていた。
いくらアイリの恋を応援しても、恋愛を封印中のディアには無意味だというのに。
どうも、魔王の行いは矛盾している。




どういう訳なのか、今回のディアの魔法の不調は、その1回きりだった。
それ以降は、普通に変身魔法も使えるようになっていた。
アイリも同様に魔法の調子が良くなって学校の課題も次々とクリアしていき、補習の必要もなくなった。
……やはり、思いが通じ合ったからなのだろう。
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