悪魔の王女と、魔獣の側近
ディアは、一瞬にして野生を宿した金色の瞳を鈍く光らせて、相手を睨んだ。

「森を荒らし、魔獣を狩る行為……断じて許しません」

ディアは静かに怒りを込めると、懐から小型の拳銃を取り出した。
これは弾丸の代わりに、魔力そのものを込めて撃つ武器。
しばらく銃撃戦を続けるが、拳銃では猟銃に太刀打ちできない。
男の一人が、仲間に向かって叫ぶ。

「ヤツの魔力が落ちてきたぞ、一気に狙え!!」

ディアは拳銃を撃てば撃つほど、魔力を消耗していく。
弾丸ではなく、魔力そのものを放出しているからだ。
長期戦になれば、確実にディアの方が撃たれてしまう。

(くっ……魔獣の姿になれば……!!)

ディアは歯噛みする。魔獣の姿に戻れば、簡単に勝てるからだ。
しかし密猟者を前にして感情が昂り、魔力が尽きかけている今、魔獣の姿に戻ったら……
魔獣の本能を制御できずに自我を失って、この密猟者たちを喰い殺してしまうかもしれない。
魔獣となったディアを制御できるのは、彼が『契約』によって忠誠を誓った、魔界の王族のみ。

(アイリ……様……)

すでに何発かの銃弾がディアに命中し、致命傷には至らないものの、かなり負傷していた。
考えている余裕など、ない。
だが先に、ディアの魔力に限界がきていた。

「うぁぁぁああ!!」

ディアが咆哮とも言える叫び声を上げると同時に、彼の体が発光する。
その光が膨張し収まると、そこにはコウモリの羽根を持つ、巨大な魔犬が佇んでいた。
ディアの、本当の姿である。

魔獣であるディアは変身魔法によって、人の姿を留めているに過ぎない。
いや正確には、凶暴な魔獣の姿と本性を、魔法によって『封印』しているのだ。
当然、魔力が尽きれば、魔法も封印も解けてしまう。

3人の男たちは戦慄した。初めて見る、『最強の魔獣』の姿に。

「コ、コイツが、『バードッグ』……」
「初めて、見た……」
「や、やべえ……」

5メートルはある巨体、黒い毛並み、鋭い牙、鋭利な爪、理性を感じさせない、魔性の眼。
自我を失った魔獣・ディアの眼は、本能のまま、男たちに狙いを定めた。
< 10 / 90 >

この作品をシェア

pagetop