悪魔の王女と、魔獣の側近

第3話『イリアの覚醒と、ディアの服従』

夜になると少し落ち着いて、いつもの二人に戻っていた。
アイリは今夜もパジャマ姿でディアの部屋に行く。
そしてベッドに並んで座ると、例の件を別方向から話し始めた。

「密猟者は、私を希少種の『バードッグ』だと言っていました」
「バードッグ?名前は聞いた事あるかも……ディアは知ってるの?」
「いえ。詳しくは知りません」

城の図書館の本を全て読み尽くしたディアでさえ、知らないほどの希少種。
思えばアイリは、自分もまだディアについて知らない事が多いのだと気付く。

「ディアって、野生の魔獣の時はどんな生活してたの?家族とかは?」
「……覚えていないのです。野生の頃は自我がなく、記憶もありません」
「そうなんだ……」

強大な力を持つディアは、その魔性を制御できずに、見境なく人を攻撃する凶暴な魔獣だった。
そんなディアをさらに上回る力で押さえつけ、人の姿に変えて側近にしたのが、魔王オランだ。
きっとディアは今でも、自分の中にある魔獣の本性を恐れている。
人を傷つけるのが怖い、愛するのも怖い。だから奥手なのだ。
……だから婚約指輪ではなく、その前段階のペンダントなのだ。

(今はまだ、ディアには言えないよね……)

アイリが心で呟いたのは、ディアとの子を身籠った『かもしれない』という事実だ。
こんな不明確な状態では、さらにディアを悩ませてしまうに違いない。
魔獣であるディアが、悪魔と人間の混血であるアイリと、本当に子を成せるのかは分からない。
もし叶わないのであれば、ディアは魔獣である自分をさらに責めてしまうだろう。

(きっと、大丈夫……今は、ディアを元気付けなくちゃ)

突然、前向き思考に切り替わるところは、さすがコランの妹なだけある。
アイリは笑顔でディアの胸に擦り寄った。
ディアの腰の後ろに両腕を回し、可愛らしい上目遣いで『おねだり』を開始する。

「ねぇ、ディア。お願い、んー……」

アイリは、口と目を閉じて、キス待ちをしている。
ディアがアイリを見下ろすと、襟が大きく開いたパジャマの中に見える、深い谷。
それを胸板に押し付けられる、柔らかい感触。
アイリは小柄で幼く見えるが、母親に似て、スタイルは抜群に良い。

「アイリ様、今日は、もうお休みに……」
「してくれたら寝るから。ね?」

……日々、アイリは甘え上手になってきている。
ただでさえ魔獣であるディアに、理性がいくらあっても足りない。
『元気付ける』の意味が、どこかズレているアイリであった。
ディアの野生を目覚めさせているのは、アイリの魔性かもしれない。
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