悪魔の王女と、魔獣の側近
彼女はアイリ本人であるようだが、人格は全くの別人。

「あはは、そうよ!ディアはアタシに服従するしかないの!!」

アイリはディアに顔を近付けて、うっとりとした表情で見つめる。

「ねえディア、知ってる?悪魔は『口付け』が契約の証になるって」
「……それは昔の話です。現在は契約書に二人の手形を押す形式に変わりました」
「さすがはディア先生ね。でも『口付け』の契約も有効なのよ」

するとアイリは、ディアの両頬を両手で包むと、そのまま唇を重ねた。

「…………!?」

『命令』により抵抗も身動きも出来ないディアは、深く重なる甘い感触を受け入れるしかない。
アイリの唇からディアの唇へと伝わり、魂まで侵食されるように体中に痺れと熱さが巡る。
ほんの数秒の口付けではあったが、それはディアにとって永遠の鎖となる。

……交わされたそれは、単なる『キス』ではなかった。

「ふふ、これでディアは永遠にアタシに服従するの」

アイリは満足そうに笑うと、再びディアに抱きついた。
今の口付けは……『契約』だったのだろうか?
ディアの中で様々な疑問が生まれるが、1つ確認しなければならない。

「あなたは、アイリ様では、ないのですか?」

するとアイリはディアから離れて、数歩だけ歩く。
少し距離を取って、正面から向かい合う。

「気弱なアイリと奥手なディアじゃ、いくら待っても無理。だから、アタシがディアを調教して結ばれるの」

それは質問の返答になっていない。
そして今度は、まるで自分がアイリではないかのような言い方だ。

「今のアタシは『イリア』って呼んで」

『イリア』と名乗った事で、さらに彼女の存在が不可解なものになる。

「……アイリ様でないのなら、従えません」
「ふ~ん、反抗的ね。それじゃ、命令」

イリアが『命令』という言葉を口にした瞬間、それはディアには抗えない言霊となる。

「アタシの事は、誰にも言っちゃダメよ。誰にも内緒。分かった?」

イリアは、唇の前で人差し指を立てて『ナイショ』のポーズをした。
その可愛らしい仕草とは逆に、その黄金の瞳はディアを射抜くように鋭く冷たい。

「ディア、返事は?」

交わされた唇、契約の強制力なのか……
意思に反した言葉が、イリアの望み通りの言葉が……ディアの口から自然と紡がれる。

「……はい。承知、致しました……」

すでに絶対服従となったディアには、イリアに逆らう術がない。
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