悪魔の王女と、魔獣の側近
アイリはディアを見上げて、その言葉の続きを待つ。

「今日をもって、私たちの『教師と生徒』という関係も卒業となります」
「え?う、うん……そうだね」

アイリは相槌を打つが、ディアが何を言おうとしているのか分からない。

「これからは、未来の伴侶としてお守りすることをお誓い致します」

そこでようやく、アイリはハッとして口元を両手で覆った。
心が、鼓動が震えて、言葉が返せない。
ディアは片膝を突いて跪くと、内ポケットから細い鎖を取り出した。
銀色の細い金属のチェーンに、小さな赤い宝石のついたペンダント。
ディアは、それを両手に乗せてアイリの目の前に差し出して見せる。

「お受け取り頂けますか?」

アイリは涙を浮かべて、ただ必死に頷いた。

「う……ん。嬉しい。ディア、大好き……」

ようやくディアは微笑んで、正面からアイリの首の後ろに両手を回して、ペンダントをつける。
アイリの胸元で輝く、小さな赤い宝石。

それは、婚約指輪ならぬ、婚約ペンダント。
このペンダントが指輪に変わる、その日までの約束であり、誓いであり、愛の証。
奥手なディアから贈られた卒業記念のプレゼントは、アイリにとって一生の宝物となった。

それからしばらく、校庭で二人だけの世界に浸っていた。
ようやく気が済むと、アイリは頬を赤くして上目遣いでディアに言う。

「じゃあ、そろそろ帰ろう。ディア、お願い」
「承知致しました」

ディアはアイリから離れて一礼すると、数歩下がる。
するとディアの体が発光すると共に、巨大に膨れ上がっていく。
光が収まると、そこには5メートルほどの巨大な犬の魔獣が佇んでいた。
見た目は黒い犬だが、その背にはコウモリのような羽根を生やしている。
この魔獣こそが、ディアの本当の姿なのだ。
アイリは慣れた動作で、その魔獣の背に飛び乗る。

「いいよ、ディア」

背中から聞こえるアイリの声を合図に、魔獣は羽根を羽ばたかせ、空へと舞い上がる。
こうやって、いつもアイリは魔獣の姿のディアの背に乗って、魔界の王宮の城へと帰る。




悪魔と人間との間に生まれた王女、アイリ。
そんな彼女が恋をした相手は、魔王の側近。
しかし彼は、悪魔でも人間でもなく……
『魔獣』だったのだ。


王女アイリと、魔獣ディアの、禁断の恋。
全ては、この『婚約』から始まった。
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