悪魔の王女と、魔獣の側近
エメラとの密会の後、時刻は深夜。
ディアは城に戻ると、自室のドアを静かに開ける。
常夜灯のみの薄暗い部屋の中で、ベッドに座っているアイリの姿が見えた。
一瞬、ディアの動きが止まる。
真正面から向かい合い、真直ぐディアを見据えるアイリの瞳は……黄金色だ。
アイリでは、ない。

「イリア様……ですか?」

目の前のアイリは、別人格の『イリア』になっていた。
ディアが確認するように問いかけると、イリアは腰を上げた。
先ほどのエメラのように、妖艶な微笑みを浮かべながら。

「お帰り、ディア」

一言だけ返すと、イリアはディアに抱きついた。
ディアは驚きながらも、イリアを抱き返す。
だが、イリアの、その表情は……

「コソコソと、どこ行ってたの?女と会ってたの?答えなさい」

それは射抜くような視線で、ディアを問い詰めるものだった。
ディアは、イリアの命令を拒めない。

「……はい。女性とお会いしておりました……」

嘘はつけない。本当の事を口にするしかないのだ。
それが契約であり、忠誠なのだから。
だがイリアは、それを聞いても落ち着いていて、堂々とした立ち姿で腕を組む。

「ふーん。ディアがモテるのは当然よね。何言われたの?」
「求婚、されました……」

その衝撃的な言葉を聞いた瞬間、イリアの金色の瞳がさらに開かれる。

「当然、断ったのよね?」
「はい。お断り致しました」

ディアの言葉に偽りはない。疑いはしないが、イリアの感情は抑えられない。
イリアはディアの首の後ろに両腕を回して、ディアの頭を引き寄せた。
そして、耳元で囁く。

「浮気したら、許さないから」

それは呪いのような、悪魔の囁き。
脳内に直接響くような重い声で、魂まで震え上がらせるような言霊。
そのまま、グッと両腕に力を入れて、ディアごとベッドに倒れ込んだ。

「ディアは、アタシだけを愛しなさい」

二人の、金の瞳が距離を縮めていく。

「私が愛しておりますのは……」

イリア様ではなく、アイリ様なのだと……
そう言いかけたディアの口を塞ぐように、イリアが深く口付けた。
その甘い感触に、意識が引き込まれそうになる。
それを引き金に、魔獣の本能が呼び起こされてしまう。
ようやく離れると、呆然とするディアに、今度は子供のように無邪気に笑いかける。

「ふふ、アタシが調教してあげる」

イリアは楽しそうにしてディアに覆いかぶさると、ディアのシャツの前ボタンを上から順に外していく。
そして次に、イリアは自分のパジャマのボタンを上から外していく。
イリアの胸元からペンダントが垂れ下がり、ディアの視界で振り子のように揺れ動く。
ディアは無言で、その様子を見つめていたが……

「おいで、ディア」

深夜の暗闇の中で、ディアは何かが覚醒されてしまう感覚を覚えた。
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