悪魔の王女と、魔獣の側近
そんな日々を過ごしていた、ある日。
魔獣の保護施設から、アイリ宛に連絡が入った。
ディアと同種族、希少種の魔獣『バードッグ』が保護されたというのだ。

連絡を受けて、アイリとディアは施設へと向かった。
施設内の中でも一際大きい頑丈な大型魔獣用の檻に、その魔獣は保護されていた。
魔獣の姿のディアよりも一回り小さいサイズの、黒い毛並みの魔犬。
間違いなく、ディアと同じ魔獣『バードッグ』だ。
片足を怪我しているとの事で、大人しく丸まっている。
そして、ある程度予測していたディアは、その魔獣の姿を見て確信した。

(エメラさん……!?)

その魔獣は、間違いなくエメラだ。
魔獣の姿のエメラは何も反応せずに、ただ静かに金色の瞳でディアを見返す。
ディアの背後では、施設の管理者の男がアイリに事情を説明している。

「密猟者の仕掛けた罠で足を怪我していました。軽傷ですが希少種なので保護しました」
「森の周辺の警備は強化したのに、まだ密猟者がいるの?」
「いえ、以前に仕掛けられた罠だと思います」
「そっか……罠の回収も急がないといけないね」

そう言うとアイリは、檻の中を見つめているディアに歩み寄って隣に立つ。
ディアは、檻の中の魔獣・エメラを見つめたままだ。

「ディアと同じ種族の魔獣、初めて見たよ。何かお話できた?」
「……いえ。魔獣は言葉が話せませんから」
「あ、そっか。でもディアと同じ魔獣だから、人の姿に変身できるかも?」

アイリの言う事はもっともで、エメラは自力で人の姿に変身できる。
だが魔獣の姿のまま、ここに来たという事は、彼女の意図は……
エメラの意図を知らないアイリは、警戒もせずに話を続ける。

「自力では変身できないのかも。ディアも最初はそうだったもんね」
「……はい」

それは、数百年前。
凶暴な野生の魔獣であったディアを、魔王オランが魔法で『強制的に』人の姿に変えたのだ。
魔王の強さに惹かれたディアは服従の契約を交わし、それ以来ディアは魔王の側近として生きてきた。
そんな彼が、自力で変身魔法を使えるようになったのは、近年なのだ。
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