悪魔の王女と、魔獣の側近
……だが、エメラは違う。
今も野生の魔獣でありながら自我を持ち、変身魔法も使える。
複雑な表情を浮かべるディアに、アイリが不思議に思った、その時。
檻の中が突然、光り輝いた。

「え……?」

アイリとディアが、同時に檻の中に視線を向ける。
そこに魔獣の姿はなく、一人の女性が座っている。
色白の肌に深緑の長い髪に金色の瞳。黒のドレスを纏った、貴婦人のような大人の女性。
人の姿のエメラである。
やはり同種族だけあって、ディアと雰囲気が似ている。
アイリは思わず、その美しい姿に見とれてしまったが、急に我に返る。

「あっ、やっぱり人の姿になれるんだね。すぐに檻から出してもらうね」

そうして檻から出たエメラには、とりあえず椅子に座ってもらった。
足を怪我しているからだ。
エメラは、アイリとディアに向かってニッコリと微笑んだ。

「助けて頂き感謝致します。わたくしの名はエメラですわ」
「私は王女アイリ、そして彼は側近のディアなの」

アイリは根っからのお姫様なので、初対面の年上女性に対してもタメ口になる。
偉ぶるわけではなく、可愛らしい見た目と口調は愛嬌があるので、相手に不快感を与えない。
そんなアイリとは逆に、先ほどからディアが無愛想なほどに表情がなく、黙ったままだ。
エメラに警戒しているのだ。
ディアの鋭い視線に気付いたのか、エメラも対抗するように視線を送った。

「失礼ですが、ディア様と王女様は、どのようなご関係でしょうか?」

唐突な質問であるが、その真意に気付かないアイリは、それを素直な意味で解釈した。

「え、だから、ディアは私の側近……」
「私はアイリ様の婚約者です」

アイリが言い終わる前にディアが言葉を被せて、堂々と婚約者を名乗った。
その力強い断言に驚いたアイリは、一気に顔を赤くしてディアを見る。
側近である前に婚約者なのだと公言されたのも同然だからだ。

(わぁ……ディアってばぁ……嬉しい、カッコいい……)

こんな時でもデレデレの顔をしてしまうアイリだが、ディアは真剣だ。
……そしてエメラも笑顔ではあるが、目は笑っていない。

「少しだけ、ディア様と二人きりにして頂いてもよろしいでしょうか」

なんとも大胆なエメラの申し出だが、アイリはそれも特に不思議に思わなかった。

「うん。じゃあ、私は奥の部屋に行くね」

(同じ種族の魔獣どうしで、話したい事もあるよね)

そう思ったアイリは、奥の休憩室で待つ事にした。
アイリとしては、野生だった頃の記憶がないディアが、過去を知る機会だと気を遣ったのだ。
……だが、ディアは、そうではない。
過去を知りたいとも思わないし、エメラと話したいとも思わない。
いや、過去を知るのを、エメラと関わるのを、本能的に恐れているのかもしれない。
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