悪魔の王女と、魔獣の側近
その日の就寝前、ディアの部屋のベッドの上に座る二人。
いつものように、アイリが『おやすみのキス』をねだる。

「ディア、今日もお疲れ様。おやすみ、んーー」

そしてディアも、いつも通り少し照れながら返す。

「はい、アイリ様。今日もお疲れ様です。おやすみなさいませ」

そう言って軽くキスをすると、ようやく部屋の明かりを消す。
とは言っても、悪魔も魔獣も夜目が利くので、暗闇の中でもお互いの姿は確認できる。
ディアはアイリが眠るまで、ずっとその顔を見つめている。
しばらくすると、アイリの呼吸が寝息に変わった。
アイリが眠っても、ディアはしばらくその寝顔を見つめて考え事をしていた。

しかし、アイリが眠った瞬間に『彼女』は目覚める。
ここが1日の終わりではない。
これからが長い夜の始まりなのだ。

突然、アイリの瞼が、カッと全開まで開かれた。

「……え?」

突然のアイリの覚醒に驚いて、ディアも目を見開く。
今のアイリの瞳の色は、ディアと同じ金色。
光源のない暗闇の中でも自ら発光する恒星のように、光り輝いている。
ディアは、すぐにアイリの異変の意味に気付いた。

「イリア様……?」

その名を呼ばれた事でイリアは満足そうに笑うと、ベッドから降りる。
そしてディアに向かって仁王立ちすると、冷たく見下ろす。

「浮気したら許さないって言ったわよね」

憎悪を込めた、その重い一言はディアの全てを制する。
ディアは起き上がって、ベッドから降りる。
その身長差から、今度はイリアがディアを見上げる形になる。

「決して、そのような事はしておりません」

ディアはイリアを恐れる事なく、真直ぐ見据えて断言する。
その言葉に偽りはない。ディアはイリアに嘘がつけないのだから。
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