悪魔の王女と、魔獣の側近
先ほどの密猟者もそうだったが、何故かアイリは魔獣だと認識されるようだ。

「王女様から、魔獣の強い魔力を感じますのよ。不思議ですわ」
「え?なんでだろう……」

今日はディアと一緒じゃないし、他に自分が纏う魔獣の魔力と言ったら……
その時、アイリはハッと気付いて、胸元のペンダントに手を添えた。

「……これだ、ディアの魔力……」

ディアが愛と魔力を込めてくれた、婚約ペンダント。
それが思わぬ誤解を招いたが、それはディアの愛の深さの証明でもあり、一層の愛おしさを感じた。
ペンダントを握りしめるアイリを見て、エメラは面白くなさそうな顔をする。

「それにしましても、王女様がお一人で外出なんて、不用心ではなくて?」
「うん……密猟者に狙われる魔獣の気持ちが分かったよ」
「それは何よりですわ」

皮肉っぽい口調で返すエメラには、アイリに敵意があるようだ。
対するアイリの思考はエメラではなく、別の所にある。

「密猟者って、森の中だけじゃないんだね……」

強い魔力を持つ魔獣は、人の姿に変身できる。そのほとんどが希少種だ。
密猟者は、人の姿で街に紛れている魔獣も狙うのだと、アイリは身をもって知った。
アイリはエメラの正面で、礼儀正しくお辞儀する。

「エメラさん。助けてくれて、どうもありがとう」
「……え?いえ、お気になさらず」

純粋で真直ぐで少しも警戒しないアイリに、エメラは毒気を抜かれてしまう。
だが、すぐに気を取り直して、いつもの調子に戻る。

「ちょうど良いですわ。王女様に見て頂きたい場所がありますの。来て頂けます?」
「え、でも、お昼休み、終わっちゃう」
「大丈夫ですわ。すぐに行けますので」

この道の両側は雑木林になっていて、エメラは片側の林の前に移動する。
木と木の間に手を差し入れて念じると、そこに空間の歪みの渦が生じた。

「ここに入り口を繋ぎましたわ。どうぞ、いらっしゃって」
「え?入り口って、どこの?」

「『魔獣界』ですわ」

そう言うと、エメラは渦の中に入っていく。
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