悪魔の王女と、魔獣の側近
コランの側近・レイトは、頭脳明晰で魔法の腕も一流、苦手なのは運動くらい。
特に氷の魔法が得意なのだ。……さすが、クールなだけある。
レイトは、アイリの片腕を掴んで走り出そうとする。

「さぁ、王女。こっちだよ、早く!」
「あ、でも、あの魔獣は大丈夫?」
「大丈夫、そのうち氷は溶けるから」

こんな時でも魔獣の心配をするアイリだが、あの氷の魔法は魔獣を足止めするだけのものだ。
少し走ると、やがて森を抜けて、城下町が見える道に出る事ができた。
思ったよりも城下町に近かったらしい。
ここでようやく、アイリはレイトと向かい合った。

「ありがとう、レイトくん。でも、なんで来てくれたの?」
「王子に頼まれたんだよ。昼休みが終わっても王女が戻らないから探して来いって」
「そうなんだ。でも、よくここが分かったね」

するとレイトは、上着のポケットから方位磁石のような小さなアイテムを取り出してアイリに見せた。
魔力探知機のようなもので、アイリの強大な魔力に反応して方向を示す。

「レイトくん、いつも便利なアイテム持ってるよね。でも、レイトくんだって森は危険なのに……」
「僕は純血の悪魔だから、王子や王女ほどじゃないよ」

魔獣は、人間の生命力に引き寄せられる習性がある。
悪魔と人間の混血であるコランとアイリは、自然と魔獣を引き寄せてしまう事があるからだ。

「それにしても王女、森の中で何してたの?」

レイトのその言葉で、アイリは先ほどまでの事を思い出した。
そして城に戻れるという安心と同時に、一気に感情が涙と共に溢れ出てくる。

「レイトくん、どうしよう~~ふぇぇ~~」
「え!?お、王女、泣かないで!!そんなに怖かったの!?」
「そうじゃないのぉ~~うぅ……」
「とりあえず城に帰ろう。ほら王女、もう大丈夫だから!ね?」
「う……ん……」

レイトに背中を撫でられながら、二人は城下町に向かって歩き始める。
普段はクールなレイトが、ここまで慌てるのも珍しい。
だが、今のアイリはそれを見る余裕もない。
そして、レイトも自分の心と感情を……冷静に見る余裕がなくなっていた。




今日は、朝からディアが珍しく寝坊して……
買い物に出かけたら、なぜか密猟者に捕まって……
初めて魔獣界を見て、エメラに衝撃の二択を迫られて……
色々な事が、ありすぎた。
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