悪魔の王女と、魔獣の側近
……と、少し和んだところで、ここからが本題だ。
アイリは、魔獣界とエメラの目的について話した。
エメラが提示してきた『ディアを引き渡すか』『戦争か』の二択の決断だ。

「これは魔界にとって重要だし、私一人じゃ決められないから……」

そう言いながら、アイリは心配そうに隣の席のディアに視線を送る。
そう……誰よりも衝撃を受けて、事態を重く受け止めているのはディアなのだ。
ディアは瞬きも忘れて、どこか一点を見つめて深く考え込んでいる。
すると突然、コランが立ち上がって、机に両手を突いて身を乗り出した。

「これから、魔王であるオレの意見を述べる」

そう言ったコランの顔は真剣そのもので、普段の無邪気な子供っぽさは微塵も感じさせない。
まさに魔王の風格を見せていた。

「……『代理』魔王でしょ」
「レイト、うるさいぞ!」

こんな空気でも横からツッコミを入れてくるレイトに、コランもいつもの調子で言い返してしまう。
コホンと咳払いをして、コランは改めて発言をする。

「ディアは渡さない。戦争もしない。魔獣界が攻めてきたら、それは侵略だ。全力で防衛する」

コランの答えは、エメラが提示してきた二択の、どちらも選ばないものだった。
しかし、その答えはアイリが一番望んでいた答えでもある。
さらにコランは続ける。

「だって別に、エメラってヤツの二択に囚われる必要はないだろ?」

その場の誰もが、コランの堂々たる姿と言葉に注目する。

「オレたちが魔界を、魔獣が結界に頼らなくても安全に暮らせる世界にしていけばいい話じゃん」

いつもの子供っぽい口調に戻ってはいるが、そこには誰もが頷ける強い力がある。
選択肢は2つだけじゃない。可能性は無限にあると、前向きな希望を感じさせる。
それを聞いたアイリとレイトから感嘆の声が上がる。

「うん。そうだよね、さすがお兄ちゃんだよ。私も賛成する」
「王子も、たまにはいい事言うよね。感心したよ」
「おい!レイト、一言余計だぞ!」

しかし、ディアだけは口を閉ざしたままだ。
そんなディアに向かって、コランは堂々と命じる。

「ディアも魔獣界の事は気にするな。普段通りにしてろ。それでいいだろ、な?」

気にするなというのは無茶ぶりだが、強引なコランの押しにディアは頭を下げる。
ディアはコランとも絶対服従の契約を結んでいるのだ。

「はい、コラン様。承知致しました」

だが、その同意の言葉は……どこか重く感じられた。
魔界を、魔獣も安心して暮らせる世界にしていく。
言葉で言っても、それは簡単な事ではない。
実際、それが出来ないから、何百年も魔獣界は結界の中に隠されているのだ。
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