悪魔の王女と、魔獣の側近
感情的になっているアイリには、そんなディアの心を汲む余裕すらない。

「だからって魔獣界に、エメラさんの所に行くの!?私は……どうなるの!?」
「アイリ様、そうでは……」
「婚約は!?結婚は!?ディアは、私よりもエメラさんを選ぶのっ!?」

アイリは目に涙をいっぱい浮かべて、ただ感情のままに叫ぶ。
まるで、魔界の平和と自分を天秤にかけられたようで。
王女である前に一人の女性であるアイリは、魔界の平和よりも何よりもディアを選ぶ。

「そうではありません!!」

言葉足らずの自分を悔やみ、ディアは悲痛な面持ちでアイリの両肩を掴む。

「私は決着を付けに行きます。貴方様との未来のために」
「え、じゃあ……」
「はい。必ず帰ってきます。お約束致します」

驚きに目を見開いたアイリの瞳から涙が零れ落ちる。
ディアはアイリの頬に伝う涙を指で拭うと、その小さな肩を引き寄せる。
言葉よりも温もりで確かめ合うように、重なり合う唇。
それは約束という名の、愛という名の……契約の証。

「ディア、信じてる……」

……もし『命令』だと言えば、ディアは行かないでくれるのだろうか。
……でも、そんな言葉でディアを縛りたくはない。

ディアが最後に、アイリに告げた言葉。


「もし、私が戻らなければ、その時は……」
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