悪魔の王女と、魔獣の側近
それでも、エメラは引かない。

「わたくしは魔獣のディア様も、人のディア様も愛せますわ」
「あなたが愛しているのは私ではありません。魔獣たちと魔獣界です」
「……っ!!」

ディアから突き放すように冷たく返された衝撃に、エメラは言葉を詰まらせる。
だが次には金の瞳を潤ませて、必死に懇願してきたのだ。

「わたくしは昔、ディア様に何度も命を救われたのです。その時からずっと、ずっと貴方様を……!」

エメラにしては珍しく感情的に心を乱している。その瞳と言葉に嘘はない。
数百年前のディアが、まだ野生の魔獣で森に生息していた頃。
ディアは、密猟者や討伐隊の攻撃から何度もエメラを救ったのだ。
……だが、ディアは僅かに眉をひそめて視線を逸らした。

「私には野生の頃の記憶がありません」

エメラの想いを断ち切るかのように放たれた、ディアの一言。
ディアの言葉にも嘘はない。しかしエメラにとって、それは残酷な決め手でもある。

「そう……ですわね。あの憎き魔王が、ディア様の記憶も封印したのですね」

力なく呟くエメラだったが、その次には瞳に猛獣のような野生を宿す。
握りしめた片手を広げると、その手の平には小さな青い宝石が乗せられていた。
その宝石が、ディアを飲み込むほどに激しい光を放つ。

「エメラさん、それは!?一体何を!?」

その膨大な魔力の放出に危機感を察知したディアは、反射的に身構える。
エメラはディアと向かい合いながらも、その激しい憎悪は魔王に向けている。

「それならば、わたくしも同じ方法を取るまで、ですわ」




この時のエメラは、ディアへの愛、種の存続、魔獣界の保護、それよりも……
エメラが本当に成し遂げたい事、それが……
ディアを奪った魔王オランと、王女アイリへの『復讐』に変わっていた。
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