悪魔の王女と、魔獣の側近
その時レイトが、前方に立つエメラよりも、さらに奥の方を指差す。

「王女、あそこ!あそこに座っているのは……!!」

イリアも、エメラを越えた遥か先に目を凝らす。
階段の上に設置された2つの椅子。その玉座に座っている人物が微かに見えた。
次の瞬間イリアは、前方のエメラを押し退けて駆け出していた。

「ディア!!」

玉座へと近付き、息を切らして階段の下から玉座を見上げる。
レイトも、その後を追ってイリアの後ろに立つ。
玉座に座っているのは、確かにディアだろう。
だがその姿は、いつもの彼らしくない黒衣と黒のマント。
そう、まるで……アイリの父、魔王を思わせる出で立ちなのだ。
そして彼はイリアの姿を見ても反応せず、感情もなく見下ろしているだけ。

「ディア!約束通り迎えに来てあげたんだから、帰るわよ」

するとディアは、ようやく腰を上げて、ゆっくりと立ち上がる。
そして、その口から放たれた言葉は……

「忌まわしいその名で、私を呼ぶな」

ディアの口から出たとは思えない冷淡な命令口調に、衝撃が走る。
目を見開き、立ち尽くすイリアの前で、ディアは追い討ちをかける。

「その名は、魔王が名付けたのだろう?私の真の名ではない」
「ディア、何言ってるの……じゃあ、アンタは誰なのよ」


「私は、魔獣界の王。魔獣王アディだ」


『アディ』と名乗った彼は、その姿は、間違いなくディア。
しかし、どういう訳なのか、人格は全くの別人に変わっていた。
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