悪魔の王女と、魔獣の側近
そうしてアイリは、その日は自室のベッドで過ごし、夕方ごろ。
部屋の扉が数回、軽くノックされた。
コランだったら前触れもなく乱暴に扉を開けるので、誰が来たのかは予想できない。
ベッドに寝ながら扉の方を見ていると、そーっと少し扉が開いた。
その隙間から顔を出した人物。

「アイリちゃん、具合は大丈夫?」
「真菜ちゃんっ!!」

部屋に入ってきたのは、親友の真菜だ。
一気に気持ちが上がったアイリは身を起こして、真菜を歓迎する。

「真菜ちゃん、お見舞いに来てくれたの?」
「うん。それもあるけど……」

真菜はアイリのベッドの前に立って、ビシッと敬礼のポーズをする。

「私が、アイリちゃんの側近・春野(はるの)真菜(まな)です!」
「えぇ!?」

真菜は、わざとらしくフルネームを名乗った。
真菜の母親は人間なので、それが正式なフルネームなのだ。
まさか、コランが手配したディアの代任の側近が、真菜だとは……。
真菜は自分で堂々と名乗った割には恥ずかしそうにしている。

「なんちゃって……私じゃダメかな……」
「ううん!!すっごく嬉しいよ!よろしくね、真菜ちゃん」

元・同級生でもある真菜は、親友であり理解者。心強い味方だ。
だが真菜は、コランの未来の側近を目指して、魔界の専門学校に通っているはず。

「でも、学校は大丈夫なの?」
「今、ちょうど夏休みだし、ディア先生が帰ってくるまでの短期間だから大丈夫」

ディアがすぐに帰ってくるという願いの込もった真菜の言葉に、胸が熱くなる。
そしてコランも、レイトも。
みんなの支えがあれば、明日からも頑張れる気がしてきた。


真菜は、側近を務める間は城に住み込みになる。
今夜はアイリのベッドで一緒に寝ることにした。


就寝前になると、パジャマ姿のアイリと真菜はベッドの上で、はしゃぎ始めた。

「真菜ちゃん、枕投げしよう~!えいっ!」
「わっ!もう、アイリちゃんったら……なんか修学旅行みたい」
「ふふ、本当だね」

アイリは、すっかり元気になったように見えるが、真菜は心配だった。
アイリは空元気で、自分を鼓舞しているように見えたからだ。
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