悪魔の王女と、魔獣の側近
その頃、エメラを自室へと案内するコランは、緊張で汗だくであった。

(どうする?部屋に行って、二人で何を話せばいいんだ!?)

後先考えずにエメラを誘ったので、その先の事は考えていない。
アドリブには弱いコランだが、アイリのために時間稼ぎをしようと必死だ。
エメラを連れて長い廊下を歩いていた、その時。
前方から誰かが歩いてきた。
それは運の悪い事にコランが今、一番会ってはいけない人物である。

「あれ?コランくん、パーティーはどうしたの?」
「うぉっ……ま、真菜!!」

その人物とは、コランの恋人であり将来の妃、真菜。
真菜は作戦を知っているものの、パーティーには参加していない。
アイリの側近という立場上、裏方で今日のアイリの執務を代行していたのだ。
ちなみにレイトも同様で、今日はコランの執務を代行している。

「え、えっとだなぁ……その……」

エメラを足止めするという作戦は急遽決まったので、真菜は事情を知らない。
今、ここで事情を話せないし、変な答えを言えば真菜が勘違いをする。
すると、エメラが笑顔で横から勝手に口を出してきた。

「王子様に、お部屋に誘われたんですのよ」

会話が途切れて、しーんとなる廊下。
褐色肌のコランの顔色は顔面蒼白になり、恐ろしくて真菜の顔を直視できない。
だが、真菜は何故か笑顔だ。

「ふぅん……そぉですか。私は春野(はるの)真菜(まな)です。コランくんの婚約者、こん、やく、しゃ!!です、一応」

エメラに向かって自己紹介をするが、目は笑っていない。
今まで真菜が、ここまで『婚約者』を主張した事はない。
嬉しい気持ちよりも、今は恐怖で震えるコラン。
するとエメラも一礼する。

「わたくしはエメラと申しますわ。アディ様の婚約者です」

それを聞いた真菜の表情が一変し、緊張が走る。

(この人が、例のエメラさん!?)

だが、その衝撃も一瞬の事で、すぐに思考が切り替わる。

婚約者がいる者どうしで密会だなんて、いい度胸してるじゃない……。
ふぅん。コランくんって、こういう大人の女性が好みなんだ……。

冷静になれば、エメラを誘ったのはコランの作戦だと気付きそうではある。
だが今の真菜は、冷静さを欠くほどに感情に流されている。

「私も一緒に部屋に行って話を聞こうじゃない。行きましょう、コランくん」
「ハイ……」

もはや代理魔王の威厳の欠片もない。
この3人で部屋で談話って、どんな修羅場のシーンだろうか。
浮気現場を発見され言い訳する男と、それを問い詰める女でしかない。
コランもまた、自らの足で文字通り『地獄』へと足を踏み入れるのであった。
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