悪魔の王女と、魔獣の側近
パーティー会場は騒然としていた。
突然、凶暴な魔獣が出現して暴れ出したからだ。
魔獣となったエメラは次々とテーブルをなぎ倒し、人々に襲いかかる。
全員が仕込み客で本物の貴族はいないが、最強の魔獣に立ち向かえる者もいない。
急いで会場に駆けつけたアイリとディアは、その光景を見て息を呑んだ。

「あれってエメラさんだよね?一体どうしちゃったの!?」
「あれは、魔力が尽きて自我を失っています」

それが、まるで先日の自分の姿を目の当たりにしているようで、ディアは苦悶の表情を浮かべた。
ふと、アイリはエメラの足元で光る小さな宝石を見付けた。

「エメラさんの足元、見て!あの宝石が落ちてる!」
「はい……ですが、近付くのは難しいですね」

暴走状態の魔獣に近付くのは、あまりにも危険だ。
だからと言って、どうする事もできない。
その時、二人の後ろから誰かが駆けつけてきた。
魔法書を片手に、エメラに向かって狙いを定めるのは、レイトだ。

「ブリザード・アロー!!」

レイトの放った魔法は、巨体のエメラの両足を氷で覆い尽くす。
アイリは驚いて後ろを振り返る。

「レイトくん!」
「今のうちに、会場の人たちを避難させておくよ!」

そう言うとレイトは後方に下がり、出入り口の扉を大きく開放した。
幸い、会場の人たちに負傷者はいないようで、次々と外へ避難していく。
レイトの氷の魔法でエメラを足止めできるのは少しの時間だ。
アイリは思い切って走り出すと、エメラの足元の宝石を拾おうとする。
しかしエメラの片足が氷を破壊し、その足の爪でアイリを切り裂こうと構える。

「えっ……きゃっ!!」
「アイリ様!!」

咄嗟に駆け出したディアの体が発光し、自らの意志で魔獣の姿に戻った。
魔獣の姿のディアは、エメラよりも一回り体が大きい。
勢いのままエメラに体当たりをして、アイリへの攻撃を逸らした。
今のディアには自我があるので、魔獣の姿でもエメラのような暴走はしない。
本能により、魔獣は魔獣を攻撃しない。
エメラは同種族のディアに敵意は向けないが、アイリには攻撃的な目を向ける。
それは単純に本能ではなく、エメラの人としての潜在意識なのだろうか。

「どうしよう……どうしたらエメラさんを止められるの?」

アイリは、なんとか拾えた青い宝石を手の中で握りしめて考えを巡らす。
ディアはエメラを傷つけるような攻撃はできない。
エメラを完全に止める事はできない。
エメラは魔力が尽きて自我を失っているだけなのだから。
ならば、魔力を回復させればいい……?
そんな考えが浮かんだものの、どうすればいいのか分からない。
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