悪魔の王女と、魔獣の側近
魔獣界の事だけではない。まだ問題は山積みだ。
アイリは、魔界の王女なのだ。
魔王が帰ってくるまで魔界を治めるという義務も責任もある。
全ての事情を魔王に話したら、どんな反応を返されるのだろうか。
魔王から全ての許可を得るのは難しいかもしれない。
ディアとはまだ婚約の段階だし、魔界の王女としての婚礼など段取りがある。
……まずは、魔界を優先せざるを得ない。
まだしばらくは、エメラが一人で魔獣界を治める事になるだろう。
それに……
アイリは今、目の前の現実に目を移す。
そこには、何かを言い合っている、コランと真菜の姿。

「それで、コランくん。さっきの話なんだけど」
「え!?さっきの話?なんの話だ!?」
「真面目に答えないと別れるわよ」
「えぇ~!?だから、あれは作戦だって!オレは真菜だけにラブラブファイヤーなんだって!」
「ちょっと意味分かんない」

いつもの漫才を繰り広げるカップル。
なんとも頼りない代理魔王……将来の魔王に、不安を感じるアイリとディアであった。

……そんな中で気配もなく、その場から、こっそりと姿を消した者がいた。
レイトだ。
どこか寂しく、哀愁を感じさせる背中を向けて、執務室へと戻っていく。
……レイトは、イリアの事を想っていたのだろう。
イリアに対して感じた、今までにない熱い感情。
それがクールに生きてきた彼にとって、初めての……だったのかもしれない。



イリアからの熱い眼差しと頬へのキスは、レイトの心の氷を溶かしていた。
ディアと同様……レイトもまた、イリアに交わされた『契約』から永遠に逃れられないのだ。


それは『愛』という名の、魂を縛る永遠の鎖。
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