束の間のブルーモーメント
「なんで……なんでそんなことするの?」
「いやならやめる? あのださい手紙、おれのすきにしていいんなら」
あぁ、わかってしまった。
菖蒲くんは、ただこの状況を楽しみたいだけだ。
相手の弱みをにぎって、自分の思い通りにする。
わたしが怒ったり、困ったりするのが面白いんだろう。
最低だ。
言い返したいけど、菖蒲くんがわたしの手紙を持っている以上、ていこうするのはよくないかもしれない。
もっとむりなことを押しつけられる可能性だってあるからだ。
でも、菖蒲くんは小さいころから飽き性なところがある。
このまま、だまって菖蒲くんの言う通りにしたら、案外あっさりと引き下がってくれたりして。
そのタイミングを見計らって、手紙を返してもらうのはどうだろうか。
この状況を乗りこえるには、それが一番の近道な気がする。
「わ、わかった。でもわたし、キスしたことがないから上手くできないかもだけど……いい?」
「どうでもいいよ、おまえの経験なんて」
強い風が吹きつけ、カーテンがそよぐ。
顔を上げると、菖蒲くんのまっすぐな視線とぶつかりあった。
きっと、どうあがいたってこの瞳からは逃げられない。
どんなに不本意なことを言われたとしても。