束の間のブルーモーメント
二才下の菖蒲くんとは、小さいころからとても仲がよかった。
ひとりっ子のわたしに本当の弟ができたみたいで、嬉しくていつもお姉さんぶっていた。
だってしっかりしていると思われたかったから。
たよれるお姉さんになりたかった。
でも、わたしえらそうだった?
うっとうしかった?
無視されはじめたのは突然だった。
だから、こうして嫌われてしまった理由が分からない。
理由を聞いたところで、菖蒲くんは教えてくれないだろう。
「これ、返してほしい?」
目の前に差し出された、破れた便せん。
どうせ、手を伸ばしたところで取り返せない。
わたしはうなずくしかなかった。
「今日の放課後、おれの教室に来いよ」
「教室?」
どういうつもりなんだろう――と思ったけど。
とりあえず「わかった」と一言だけ伝えて菖蒲くんに背を向ける。
「絶対来いよ」
背中から念を押され、ひるみそうになったけど、だまったまま大きくうなずき返す。
もう何も言われたくなくて、逃げるように廊下を蹴った。
五月のまぶしい光が、雲の切れ間から顔を出す。
かすかな熱が照り返す廊下を走りながら、わたしはほんの少し、この季節がきらいになった。