失くしたあなたの物語、ここにあります
「この本さ、とある世界に連れ去られた少年が冒険を通じて成長する10年間を描いたファンタジー小説なんだよね。よくあるっていうか、王道展開が積み上げられたストーリーなんだけど、ついつい先が気になって寝る間も惜しんで読みたくなるぐらいの話なんだ。自分の意思を貫いて逞しく成長した少年は、冒険を終えて元の世界に戻されるんだけど、戻ってみたらたった一晩しか経ってなかったんだ。タイトルの意味は、何者にも染まらない若者の一晩の出来事ってところかな。それでさ、この本が伝えたいものっていうのも、人には人のいろんな人生があるんだから、自分は自分、信じた道を突き進めばいいっていうありきたりなものなんだよね。既視感のある展開なのに、こんなにワクワクする小説って、俺はあんまり知らないなぁ」
「それじゃあ、面白いんじゃない」
沙代子があきれて言うのに対し、悠馬は興味深そうに天草さんを見ている。
「でもさ、俺にとっては、そんなのわかってるよって、今だからそう思っちゃうような話。読む人の年齢や、その時々の立場で見え方が違うものだとは思うよ」
悠馬が静かにうなずいている。天草さんに共感してるのだろう。
中学2年生だった読書家の彼は、同年代の子たちよりも大人びた考え方を持つ子どもだったかもしれない。だけれど、母と口をきかなかったり、年相応の反抗期を過ごしていた頃だろう。
「悠馬も、面白くなかった?」
反抗期のときにどうしてもこの本の内容が受け付けなかったのだろうか。
「面白くなかったよ、全部」
「全部って?」
「……全部は全部だよ。俺は『宮寺の息子』かもしれないのに、銀さんは毎年、父親面して誕生日に本を贈ってきた。そういうのも、全部」
「それじゃあ、面白いんじゃない」
沙代子があきれて言うのに対し、悠馬は興味深そうに天草さんを見ている。
「でもさ、俺にとっては、そんなのわかってるよって、今だからそう思っちゃうような話。読む人の年齢や、その時々の立場で見え方が違うものだとは思うよ」
悠馬が静かにうなずいている。天草さんに共感してるのだろう。
中学2年生だった読書家の彼は、同年代の子たちよりも大人びた考え方を持つ子どもだったかもしれない。だけれど、母と口をきかなかったり、年相応の反抗期を過ごしていた頃だろう。
「悠馬も、面白くなかった?」
反抗期のときにどうしてもこの本の内容が受け付けなかったのだろうか。
「面白くなかったよ、全部」
「全部って?」
「……全部は全部だよ。俺は『宮寺の息子』かもしれないのに、銀さんは毎年、父親面して誕生日に本を贈ってきた。そういうのも、全部」