失くしたあなたの物語、ここにあります
うなずいた彼は、何か思い出したような表情をして、パソコン横に立てかけてある一冊の本を手に取った。
「この本がさ、中学生のときにおこづかいで初めて買った本」
「『美味しいハーブティーの作り方』?」
初心者向けのハーブティー指南本のようだ。ずっと大切に持っていたのだろうかと思ったとき、彼は何か思い出したのか、苦笑して言う。
「これさ、銀一さんの古本をリスト化してるときに見つけたんだ。きっと、俺がまほろば書房に持っていった本だと思うんだよね」
「じゃあ、もともとは天草さんの本?」
「そうじゃないかなって思ってる」
「見ていい?」
沙代子が本を手に取ると、天草さんはカウンターから出てきて扉へ向かう。お店を閉めるのだろう。
まろう堂は目立たない小さな立て看板を出しているだけで、営業しているとわかるような目印がない。時間になれば、こうやって彼が看板を片付けて、内側から鍵をかけるだけだ。
扉を開けた彼が看板を引っ込めたとき、女の人の声が聞こえた。お客さんだろうか。沙代子が振り返ると、彼の向こうにベージュの服だけが見えた。
「今日はもう終わりました」
天草さんは淡々と答えていた。彼は時々、わがままを言う客に素っ気ない態度を取る。
ふたりはしばらく何か言い合っているようだったが、張り上げた女の人の声が、沙代子の耳にはっきりと届く。
「あなたに会いに来たって言ったら、入れてくれるのね?」
「この本がさ、中学生のときにおこづかいで初めて買った本」
「『美味しいハーブティーの作り方』?」
初心者向けのハーブティー指南本のようだ。ずっと大切に持っていたのだろうかと思ったとき、彼は何か思い出したのか、苦笑して言う。
「これさ、銀一さんの古本をリスト化してるときに見つけたんだ。きっと、俺がまほろば書房に持っていった本だと思うんだよね」
「じゃあ、もともとは天草さんの本?」
「そうじゃないかなって思ってる」
「見ていい?」
沙代子が本を手に取ると、天草さんはカウンターから出てきて扉へ向かう。お店を閉めるのだろう。
まろう堂は目立たない小さな立て看板を出しているだけで、営業しているとわかるような目印がない。時間になれば、こうやって彼が看板を片付けて、内側から鍵をかけるだけだ。
扉を開けた彼が看板を引っ込めたとき、女の人の声が聞こえた。お客さんだろうか。沙代子が振り返ると、彼の向こうにベージュの服だけが見えた。
「今日はもう終わりました」
天草さんは淡々と答えていた。彼は時々、わがままを言う客に素っ気ない態度を取る。
ふたりはしばらく何か言い合っているようだったが、張り上げた女の人の声が、沙代子の耳にはっきりと届く。
「あなたに会いに来たって言ったら、入れてくれるのね?」