失くしたあなたの物語、ここにあります
「天草さんとお知り合いなんですね」
ようやく、沙代子は口を開いた。
「志貴と付き合ってたの」
あっさりと告白するから、沙代子はますます気まずくなるが、潔い彼女の態度には納得していた。
薄々、そうじゃないかと思っていたのだ。商店街で出くわしたときは、天草さんが気をつかって詩音さんを遠ざけてくれたんだと思っていたけれど、さっきの様子を見る限り、彼が彼女をさけていた。
「今は志貴、あなたと付き合ってるんですね」
「……うわさを聞いたんですか?」
「みんな、そう言ってるわ」
「うわさされてるのは知ってます。でも、付き合ってなんかないんです」
「本当に? みんなの勘違いってこと?」
みんなが誰を指しているかはわからないが、沙代子は否定するしかない。
「ありもしないうわさを信じるんですか?」
宮寺院長と母の不倫が発覚したとき、母は悠馬を身ごもっていた。あのとき、悠馬は宮寺の子どもだといううわさが立った。
父は宮寺院長に言いたかったはずだ。悠馬は俺の子だと。だけれど、うわさを否定しても、出ていった母は戻らない。変わってしまった葵家の家族の形はもとに戻らない。それがわかっていたから黙っていた。
歯止めが効かずに広がったあのうわさに苦しめられたのは、葵家だけでなく、宮寺の妻と娘である詩音さんも一緒だったのではないのか。
暗に沙代子がそう言ったことに、彼女は気づいたみたいだった。「そうね」と、つぶやいた彼女は肩をすくめた。
「そうと知らずにマロウブルー頼んだりして、意地悪しちゃった」
「それが意地悪なんですか?」
「マロウブルーは志貴にとって特別なハーブティーなの。私には飲ませたくないだろうから、わざと」
ようやく、沙代子は口を開いた。
「志貴と付き合ってたの」
あっさりと告白するから、沙代子はますます気まずくなるが、潔い彼女の態度には納得していた。
薄々、そうじゃないかと思っていたのだ。商店街で出くわしたときは、天草さんが気をつかって詩音さんを遠ざけてくれたんだと思っていたけれど、さっきの様子を見る限り、彼が彼女をさけていた。
「今は志貴、あなたと付き合ってるんですね」
「……うわさを聞いたんですか?」
「みんな、そう言ってるわ」
「うわさされてるのは知ってます。でも、付き合ってなんかないんです」
「本当に? みんなの勘違いってこと?」
みんなが誰を指しているかはわからないが、沙代子は否定するしかない。
「ありもしないうわさを信じるんですか?」
宮寺院長と母の不倫が発覚したとき、母は悠馬を身ごもっていた。あのとき、悠馬は宮寺の子どもだといううわさが立った。
父は宮寺院長に言いたかったはずだ。悠馬は俺の子だと。だけれど、うわさを否定しても、出ていった母は戻らない。変わってしまった葵家の家族の形はもとに戻らない。それがわかっていたから黙っていた。
歯止めが効かずに広がったあのうわさに苦しめられたのは、葵家だけでなく、宮寺の妻と娘である詩音さんも一緒だったのではないのか。
暗に沙代子がそう言ったことに、彼女は気づいたみたいだった。「そうね」と、つぶやいた彼女は肩をすくめた。
「そうと知らずにマロウブルー頼んだりして、意地悪しちゃった」
「それが意地悪なんですか?」
「マロウブルーは志貴にとって特別なハーブティーなの。私には飲ませたくないだろうから、わざと」